「ミステイクに気付いたら、ワンテイクと言わず、何度でも」ジェイ・ケリー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ミステイクに気付いたら、ワンテイクと言わず、何度でも
ノア・バームバック×ジョージ・クルーニー×アダム・サンドラー!
豪華でユニークなトリオで贈るのは、映画業界を舞台にしたコメディ・ドラマ。
成功も地位も名声も手に入れた映画スターの、その実内心に抱える苦悩や喪失感…。
ユーモアと哀愁滲む姿と彷徨に、シンパシーを感じる映画人も多いのでは…?
勿論映画人でなく私たちが見てもハートフルとビターな大人の青春ドラマになっている。
ジェイ・ケリーは演じるクルーニーを地で行くような映画スター。
常にファンから黄色い声援を浴び、現場では彼中心で周り、豪邸に住み、移動は高級車やプライベートジェット。
取り巻きもいっぱい。特にマネージャーのロンとは親友でもあり、彼から献身的に支えられている。
何不自由なく、順風満帆に思えるが、最近これだ!…と思える作品が少ない。
次の作品の撮影も控えているが、そのちょっとの充電期間に、末娘と一緒の時間を過ごそうと思っていた。妻とは離婚、長女とは…。
ところが、末娘は友達とヨーロッパ旅行に行く計画を立てており、当てがハズれガックリ…。
そんな時、恩人の映画監督が死去。世話になったが、頼まれた出演話を断った事があり、後悔…。
その葬儀終わり、演劇学校時代の知人と再会する。彼に誘われ当初はお酒を飲みながら思い出話に花を咲かせていたが、実は彼から恨まれていた事を知る。彼の付き添いでオーディションへ。自分が気に入られ映画スターとなり、好意を持った同じ女性を奪った経緯も…。口論となり、喧嘩。ジェイは相手を怪我させてしまう…。
仕事もプライベートもゴタゴタ続き。さらに何を思ったか、次作撮影開始直前で突然ヨーロッパ旅行をすると言い出して…。
ヨーロッパ旅行にはある目的が。
トスカーナの映画祭で功労賞を授与される事になっており、それを口実に、偶然を装って末娘と会う。
クレジットカードの利用履歴から乗る列車も特定…って、親でありながらやってる事はストーカー。
本人はお気楽モード。しかし、ロンらスタッフは…。
まさか一人で行かせる訳にはいかないから、皆も同行。各々、家族と予定あったのに…。
…と、まあ、言われなくとも分かる通り、かなりの自己チューワガママ困ったちゃん。
本人は最近悩みや問題を抱え、スターもつらいよかもしれないけど、振り回される周りのスタッフこそつらいよ。
リアルに居たら超面倒なかまってちゃんを、何処か憎めない人物像に見せたのはやはりジョージ・クルーニーの魅力。
ユーモア、ペーソス、勿論カッコ良さも。スターがスターを演じるのだからこれはハマり役。
旅の雲行きが怪しくなってくる。
列車で“偶然”娘と会う。本人は嬉しそうだが、娘は彼氏や友人らとのプライベート旅行を邪魔され、ストーキングされた事もバレ、ドン引き&お怒り。まあ、当然だけど。
授与式に長女や父を招こうとする。長女は拒絶。ほとんど父親らしい事をしてくれなかったジェイをよく思っていない。ジェイと長女の関係はそのままジェイと父親の関係でもある。ジェイと父親も良好な関係とは言い難い。それでも招き、やって来たのだが…。プレゼントは受け取って貰えず、体調を崩して授与式前夜に急遽帰ってしまう。
ジェイに同情したい所だが…、否。執拗に授与式に来て欲しいとねだる。自分の晴れ舞台を祝って欲しいのか…? それでこれまでの溝が埋められると思っているのか…? 自己チューさが浮き彫りに。
遂には周りのスタッフもうんざりし始め、早々と帰ってしまう者も。
それでもロンは付き添っていたが…。
この旅の中でジェイは過去を振り返る。
スタジオの扉を開くと、そこには過去のシーンが…。映画的なユニークな見せ方。
オーディション。彼には悪いけど、ここから始まったんだ。認められたのは嬉しかった。
長女との確執。プライベートでは家庭を顧みなかったのに、映画では良きファミリーマンを演じる事も。私より映画の中のあの子に優しい。それがどんなに寂しかったか…。
魅力的な共演女優といい雰囲気になった事も。が、どんなにロマンチックなシーンを演じても、こちらが特別な感情を抱いても、成就する事はなかった。恋もしたし、恋に破れたし、結婚生活も破綻した。
振り返ると、後悔の多い人生。流れで失ったもの、自分の手で失ってしまったものも…。
得たものや自身のキャリアは誇りに思っている。決してそれは後悔していない。
しかし今また、失うとしているものも…。
ジェイと違ってロンは家庭関係は良好。
が、突然のジェイの同行に不満たらたら。遂には言い争い。
ロンにはもう一人マネージしている俳優がいるが、突然契約を打ち切られる。君は僕よりジェイに肩入れしている。
傍目にはそう見えるかもしれない。ジェイは手の掛かる子供みたいなものだから親代わり。
ロン自身はどう思っているのか…?
前々から蓄積していたのか、この旅がきっかけとなったのか、関係に疑問を抱くように。
本当にパートナーで親友なのか…? ジェイの為に傷害トラブルも強引に解決させたし、キャリアの為に仕事も繋いだ。間もなく撮影が始まる作品も苦労して取ってきた。
全て最愛の友の為に。なのにジェイは、自分の事ばかり…。
穏やかなロンもとうとう疲れた。ジェイの元を去る事を決める…。
ジェイが主人公だが、これはロンの苦悩や彷徨の物語でもある。
いつものコミカル&オーバー演技は微塵も見せず、抑えた演技で穏やかさと献身的な支えを表し、彼もまた哀切さを滲ませたアダム・サンドラーはキャリアベストと言っていい名演。
バームバックとの再タッグもさることながら、Netflixとは本当にいい仕事をする。『HUSTLE/ハッスル』も良作だった。近年完全にNetflix専属と言われるのも分かるくらい、Netflixはまたさらに彼の事を離さないだろう。つまりそれはアダム本来の実力なのだ。
ローラ・ダーン他周りも豪華アンサンブル。
言うまでもなくノア・バームバックの絶妙見事な演出とオリジナル脚本。前作『ホワイト・ノイズ』がいまいちだった分、分かり易さも受け入れ易さも好感。
中にはジェイのワガママぶりにイライラする人も多いだろう。
しかし、そんなだめんずがやっと気付いてこそ、じんわり来る。
失って後悔する前に、気付いて!
それが自分にとってどんなに大切な存在か、欠けがえのない存在か。
人それぞれだが、ジェイのこの場合、友。
謝罪、自分自身の見つめ直し。
揃って出席した授与式。自分だけじゃなく、2人で得た栄誉。
授与式で映し出されるジェイのこれまでの出演作が、まんまジョージ・クルーニーの出演作なのがユニーク。『ER』や『ピースメーカー』など懐かしいなぁ…。何だかジェイ…と言うよりジョージ・クルーニーそのものの軌跡を振り返ってる感じ。まさかこれで引退じゃないよね!?
皆が称えてくれる。自分の人生は後悔ばかりじゃない。
いや寧ろ、後悔もあってこそ愛おしい。
実際には来ていないが、出席者の中にこれまで連れ添った人たちの幻影を見る。
友と関係持ち直した。次は家族とも。
まだやれるかな? 後ワンテイク。
ワンテイクとは言わず。何度でも。
