「生臭坊主への復讐」ナイブズ・アウト ウェイク・アップ・デッドマン 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)
生臭坊主への復讐
ライアン・ジョンソンはTVシリーズポーカーフェイスのコンセプトをたずねられたとき「私が子供の頃に見ていたような、楽しくてキャラクター主導の、毎週事件を扱うミステリーの良さを掘り下げたものになる」──と語っていた。
ナターシャ・リオンはピーター・フォークを模しており、ドラマは真相を先に見せてから謎解きしていく倒置型になっていてコロンボそのものだった。
それを見たときライアン・ジョンソンという演出家は革新や目新しさへ奔ることなく過去のすぐれたミステリー遺産をオーソドックスに再映する職人型だと感じた。
今回のナイヴズアウトも古き良きミステリーを思わせる。筋立てはウィックス(ブローリン)がオリエント急行でいうところのラチェットであり、ウィックスは表向き敬われながら内実みんなに嫌われている。ダニエル・グレイグがポアロのような鷹揚さや滑稽さを見せながら実現不可能に思えるトリックを溶解していく。
役者もきれいに撮らず、素朴さを隠さずに演じさせており、ジェームズボンドだったグレイグはときどきぶざまでさえあるし、ホークアイのジェレミーレナーもおっさんにしか見えない。化粧っ気のないグレンクロースに残酷なほどカメラが寄るし、ミラクニスも警部補というよりは警官のコスプレしている人という感じ。素朴な外観で演技に集中させつつ、観衆の関心を種明かしへ持って行く演出はさすがライアン・ジョンソンだった。
もう一つは人の執心である。ころしを扱うミステリーなのだが、ふと、人間本来の良さや悪さが表れるときがある。この映画でいうと、建設会社の従業員であるルイーズと電話で会話しているとき、たんなる無駄話好きに思えたルイーズが、母親との確執に悩んでいることを知ってラングストロム(ジェフリーライト)は電話越しに懺悔をやってやる。
物語の中に本質的な命題が入っているときがある。ミステリと言うなかれで菅田将暉が柴咲コウが義父から「おんなのしあわせ」について説教されるのを反発する場面があったでしょう。ミステリーといえども人間感情によって繰り広げられる世界であり、それが表れる原作には感情移入ができる、という話。
ただ、けっこう長いのと乾きすぎ。
前前ナイヴズアウトのショートでゴージャスだったジェイミー・リー・カーティスやアナデアルマス、前ナイヴズアウトのジャネールモネイとか、ナイヴズアウトの艶々した魅力を担っているパーソナリティが今ナイヴズアウトにはいなくて、いないのはいいけれど本筋も硬派すぎるきらいはあった。前述とは矛盾するが、もうちょっときれいに見せたっていいべ、という感じはした。笑
