「奇抜なアイデアで見せる、現実的な着地」終わりの鳥 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
奇抜なアイデアで見せる、現実的な着地
【イントロダクション】
余命僅かな少女の前に、生命の終わりを告げる鳥〈デス〉が現れる。監督・脚本はダイナ・オニウナス=プスィッチ。
【ストーリー】
“生き物に終わりを告げる”存在、〈デス〉(声:アリンゼ・ケニ)。彼は自らを求める声に応じて現れ、命を刈り取っていく。
余命僅かな15歳の少女・チューズデー(ローラ・ペティクルー)は、母親のゾラ(ジュリア・ルイス=ドレイファス)と郊外の自宅で2人暮らし。ゾラは、看護師のビリー(リア・ハーベイ)に娘の世話を任せ、仕事に行くフリをしては家にある金品を売って生活費を工面し、それ以外の時間はカフェや公園でやり過ごしていた。
ある日、チューズデーの前に〈デス〉が現れる。しかし、チューズデーは咄嗟のジョークで〈デス〉を笑わせ、心の準備が出来るまでの猶予を得る。
チューズデーは〈デス〉をバスルームに招き、彼の身体に溜まった汚れを落とす。〈デス〉はチューズデーに興味を持ち、彼女との会話を始める。〈デス〉は身体の大きさを人と同等から手の中に収まるまで自由自在に変化させる事が出来、言葉を操り録音機のように人の台詞を正確にモノマネする事すら出来た。
公園のベンチで眠ってしまったゾラは、寝過ごした事に慌てて帰宅する。ビリーから「もっとあの子と一緒にいてあげて」と告げられるも、ゾラは娘との接し方に戸惑いを抱えていた。チューズデーの部屋を訪れたゾラは、チューズデーの耳の中に小さくなって隠れていた〈デス〉と対面する。娘を死なせまいと抵抗するゾラは、〈デス〉を騙して本でめった打ちにし、火を着けて焼き殺した挙句、食べてしまう。
翌日、ゾラは「〈デス〉は去って行った」とチューズデーに嘘を吐き、親子水入らずの日々を楽しむ。しかし、些細なキッカケで親子喧嘩に発展した際、感情が昂ったゾラは突如巨大化してしまう。ゾラは〈デス〉を捕食した事で、彼に備わっていた能力を得てしまったのだ。
やがて、ゾラはチューズデーを伴って、死を待つ人々を解放する旅に出る。
【感想】
〈死〉を具現化し、〈デス〉というキャラクターで表現するというアイデアのユニークさが良い。また、“生き物に終わりを告げる”という役割を担う彼自身が、世界中から自らを求める声に苦しめられているという視点も興味深い。彼は所謂“死神”なのだが、死を運ぶ事を楽しんでいるわけではないのだ。
コンゴインコをモチーフにした愛らしい見た目、ラップミュージックを嗜み、電子タバコも吸うという割と俗物的な性格含め、観ていて非常に親近感が湧く。それは、〈死〉を恐怖の対象としてではなく、いつか必ず訪れる、常に我々の身近にあるものとして感じさせる狙いがあるのだろう。
ゾラの逞しさよ。チューズデーを死なせまいと〈デス〉を捕食した際の、「あれ?意外とイケるかも?」と言わんばかりの表情の演技がコミカルで面白かった。
仕事をせず(恐らく、精神を病んでいて働けない)、金品を売って誤魔化しながら生活している姿は、同様の経験をした事があるので理解出来る。しかし、かといって娘と距離を取ってしまうのは、親として無責任な気もする。
〈デス〉の能力を獲得した中盤からの展開には驚かされた。『BLEACH』よろしく、まさかの“死神代行”展開である。
しかし、世界から〈死〉という概念が消失した以上、ゾラは世界中を回らなければならないはずなのだが、そうしたスケール感には乏しい。そもそも、〈デス〉一人(一羽)で、世界中のありとあらゆる生命に終わりを告げるというのも無理があるのだが。今こうしている瞬間にも、世界でどれほどの命が失われている事だろうか。そうした設定の荒唐無稽さ、ツッコミ所の多さが、私には作品との距離が出来るものとなった。
エンドロールで流れる、アイス・キューブの『It Was A Good Day』。結局、人生には良いことも悪いことも訪れる。歌詞にある「あと24時間生きられるかな」という一説が刺さる。
【考察】
ラスト、〈デス〉はチューズデーを喪った悲しみに暮れるゾラを気にかけ、彼女のもとを訪れる。
「神はいない。お前たちの思うような神はな。だが、来世はある。お前の響きや、痕跡や、思い出があの子の来世だ」
〈デス〉の語る“来世”の正体。それは、遺された者達の中に“思い出”として遺る事。同時に、遺された側は失った命を忘れてはならないという事だろう。
先述した『BLEACH』の連載前の読み切り版に登場する台詞なのだが、「遺した奴も遺された奴も、淋しさは同じ」なのかもしれない。
そうして、死を告げるはずの存在が、「生きろ」と一個人の背中を押す展開はベタ。正直、この回答に行き着くには、それまでのプロセスが説得力に欠ける印象だった。もう少しドラマ性のある展開を経ていれば、この回答にもすんなり納得がいった気がするので残念に思う。
朝日を前に、ゾラは決意を新たにする。
「立ち上がらなきゃ」
それは、遺された者が果たすべき唯一の使命なのかも知れない。
【総評】
〈死〉を具現化するというアイデア、デスのビジュアルが魅力的だった。しかし、奇抜なアイデアに対して、作品が示す回答は月並みなものであったのは少々残念に思う。
余談だが、入場者特典のヒグチユウコ氏によるアートワークのポストカードが嬉しかった。