「他人ごとに思える人もいるし、私の話だと思える人もいる、諸刃の剣のような青春グラフィティ」6人ぼっち Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
他人ごとに思える人もいるし、私の話だと思える人もいる、諸刃の剣のような青春グラフィティ
2025.5.14 大阪ステーションシティシネマ
2025年の日本映画(85分、G)
クラスでぼっちの5人と不登校生徒が修学旅行で同じ班にさせられる様子を描いた青春映画
監督は宗綱弟
脚本は政池洋佑
物語の舞台は、東京のとある高校
2年3組の面々は修学旅行を控え、班決めをすることになった
クラス委員の長谷部(小西詠斗)が仕切る中、それぞれは好き勝手にグループを形成していくが、5人だけが取り残される格好となった
コミュ障で隠キャの加山(野村康太)、自分勝手なインフルエンサー・すみれ(三原羽衣)、勉強以外興味なしの琴(鈴木美羽)、空気が読めずハブられている五十嵐(松尾潤)、気弱なちえ(中山ひなの)
担任の島先生(賀屋壮也)は、「ちょうど5人だし、お前ら同じ班でいいな」と無理矢理班決めをして、班長に加山を指名した
修学旅行当日、これまで一度も姿を見せなかった飯島(吉田晴登)が現れ、島先生は加山の班に彼を無理矢理押し込める
そして、6人の無関係なクラスメイトだけの班で広島旅行に向かうことになったのである
映画は、クラスに馴染めない&馴染もうとしない6人が描かれ、それぞれにはそれなりの理由がある
馴染めないのは加山、五十嵐、ちえで、彼らはコミュ障気味な部分と空気の読めなさ、自分に自信がないなどの理由で溶け込めていない
馴染もうとしないのはすみれ、琴、飯島で、彼らは自分中心の生活を送っているか、学校に良い思い出がない、という感じになっている
加山は、みんなが行きたい場所を行こうということで、単独行動しそうな全員を引っ張っていく
バッティングセンター、話題のカフェ、広島城、お好み焼き屋などの定番コースに加え、飯島は橋を選び、ちえはみんなが行きたいところに行きたいという
そんな中で「事件」が起こってしまう
物語は、この6人がぼっちになっている理由をそれとなく描いていくものの、加山に関しては背景がほとんどわからない
彼は冒頭で「このままぼっちなら」と将来を心配するのだが、彼がどの時点からぼっち状態で、どうしてこの時期にそれを思い立ったのかというのはわからない
あくまでも漠然とした不安というものがあって、それが偶然修学旅行直前だった、という感じになっている
わかりやすいトリガーがある人もいれば、傍から見ていても全くわからない人もいる
そんな加山は「事件」を通じて飯島の本心を知ることにより、その考えに至ったのは自分だけではないという共感と安心を得ることになる
自分を客観視するという部分が欠けている6人は、それを許容している人と、それは自分ではないと突き放している人に分かれている
他者の視線を気にしている人もいれば、他者の視線に価値がないと思っている人もいる
そういった人々が何らかの強制的な空間に放り込まれたら、という実験のようなものだが、本当にぼっち気質の人なら打ち解け合うのも難しいように思える
また、真性のぼっちというのは、陽キャに見えて裏がある人物で、見せかけの青春を送っている人の方だったりする
無関心と敵視の間には強烈な溝があるのだが、飯島を敵視していた長谷部はその典型なのだろう
彼は歓楽街での単独行動がバレて窮地に陥ることになるのだが、その後も表面上は付き合いが続くものの、水面下では蔑視されるという人生を歩む
それが卒業でリセットされると思われがちなのだが、現代社会においては「ネット上で生き残る」というものがあって、裏垢などに代表されるものが「長谷部の知らないところ」で展開し続ける
そうしたものが社会人になったある瞬間に暴露されるというのがデフォルトの社会になっているので、失敗できないという強迫観念が強い総監視社会を生んでいる
真性のぼっちというのは、その世界でぼっちであることを知ってしまった人間であり、それゆえに表面的な付き合いで濁しつつ、人間不信に陥ってしまうタイプの人間だと思う
映画では、そこまで踏み込んだぼっちというのは描かれないが、何かのきっかけで転落するのは、人に敵意を向けてきた人間であるというのはいつの世も変わらないのではないだろうか
いずれにせよ、大人が見ると歯痒くて、同世代が見ると共感を得るのだと思う
ただし、本当に観てほしい人たちは活動的な時期の映画館には行きづらいところもあるので、集客力の強すぎる映画が公開している時期を避けた方が良かったと思う
この映画は諸刃の剣のような部分があって、加山たちを俺だ!と思う人がいる反面、こういうのいたよねと思って馬鹿にする層もいたりする
そう言った意味も含めて、長谷部には明確な制裁が必要であって、それが真性ぼっちへの転落だったように思える
そこで誰が彼に制裁を与えるかは様々だが、おそらくは無言の敵意というものがクラスメイトから滲み出るので、それが突きつけられただけでも意味があったのだと思う
また、この状況を放置している担任もかなり問題なので、そこにメスを入れるような展開があっても良かったのかな、と思った
わかりやすいのはラブホ前で長谷部と遭遇する先生で、先生は長谷部の彼女っぽい生徒と一緒にいた、みたいな展開だろう
そして、それが誰かに盗撮されて社会的に死ぬ、というのも今風で、長谷部だけにとって最悪の修学旅行になれば良いのかな、と感じた
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