配信開始日 2025年2月27日

「視点を共有し、共に感じ、掘り下げること」ニッケル・ボーイズ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0視点を共有し、共に感じ、掘り下げること

2025年3月23日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

これは60年代初頭の米南部を舞台にした物語だ。登場人物やエピソードはフィクションではあるものの、ニッケル校の実態は、実在のドジアー男子学校での出来事と一致する。つまりリアリズムや告発という位置づけを持つのだが、しかし本作は単に事実を伝えるのではない。むしろエルウッドとターナーの「第一人称としての視点」を際立たせたアーティスティックな構造で語られる点に留意したい。食堂シーンでふと二人の視点が反転することに象徴されるように、彼らにとっての「I」と「YOU」は運命論的にいって極めて不可分のもの。そして彼らのみならず「主人公」と「観客」もまた、じっくり視点を共有し、同じ心の機微を感じ合う関係性にある。そういった意味でも、本作はアフリカ系アメリカ人の記憶として線引きするのではなく、時折映し出される発掘作業のように一緒になって記憶を掘り下げゆく物語。やや分かりにくいラストの反転もしっかり噛み締めたい。

コメントする
牛津厚信