「銀河鉄道の夜」TOKYOタクシー 猿田猿太郎さんの映画レビュー(感想・評価)
銀河鉄道の夜
公開からずいぶん経ってから、やっと見ました。見て良かった。見たいアニメとか沢山あったし、人間ドラマはしんどいかなと思って食指が進まなかったけど、見ておいて良かったと思いました。やっぱり重たかったけど。
直感的に「銀河鉄道の夜」だったと思います。物わかりの悪い私の感じ方が正しければの話ですが。特に次の入居先、老人ホームに近づくにつれ、夜がとっぷり暗くなる、その様がまるで「銀河鉄道の夜」の「石炭袋」の様。そう気が付いてからは、結末まで「銀河鉄道」のイメージのままに雪崩れ込んだと思います。
単純に「山田洋次監督」版の「銀河鉄道の夜」を描いただけでは無いと思います。それはラストの遺産を譲り受けた下り。正にお伽話の様で、めでたしめでたしで話を閉じるための魔法に見えるのですが、「それだけでは終わらせない」という仕掛け。これは「銀河鉄道の夜」だから、「遺産相続のお伽話」ではないんだよ、よく考えなさい、というメッセージだというのは考えすぎでしょうか。
「自分は人のために何が出来るのか」というのが「銀河鉄道の夜」の大切なテーマだったと思います。そのツボは、あのタイタニックに乗っていた女の子が語っていた「蠍の火」のエピソード。詰まらない死に方をしてしまった蠍の話。せめて自分が喰われてやれば、あのイタチ(だったかな)も一日、生きながらえただろうに、という教訓。
まさしく、ラストで「俺は間違っていた。望み通り、ホテルに泊めてやるべきであった」の嘆いていたキムタクさんこそ、その蠍の姿であり、自分が後悔しないようにと思い立ったのが、遺産を譲ったスミレさんだったのではないでしょうか。
そしてキムタクさんは涙する。後ろに眠る妻と娘を乗せて。妻のことを「ちゃんと愛していると云え」と諭されて、非道い夫のエピソードを聞かされ、その夫の股間を焼いた女の恐ろしさ、そして息子を失った悲しさも聞かされ、さあ運転手さん、あなたは何が出来るの? そう考えると譲り受けた遺産は余りに重い。正に母親のための牛乳を抱えて走るジョバンニそのものでは無いでしょうか。
映画自体、何気ないようで凄いですね。運転しながらの演技のシーンは流石に合成だと思いますが、運転手さんの妻との馴れ初めを語るシーンで、車の外ではタイミング良くウェディングドレスの姿がちらり(たまに見かける写真撮影しているモデル達だと思いますが)。わざわざモデルさん用意したのかな。名監督には「あの山をどかせ」とか言い出したりするから、それよりは簡単だけど。雑踏の映画撮影なんて、適当にカメラ回して出来るもんなんだろうか。「腕組んでいい?」ってところで、ちゃんとカップルのエキストラで印象づけるとか、色々と気配りが凄い。
オープニングの小ネタも良いですね。明石家さんまと大竹しのぶさん。スマホに映るしのぶさんと「姉」との表示には吹き出して笑ったw テロップ付きの登場みたいで。
余談ですが、「遺産を貰えたお伽話」の「めでたしめでたし」について。やっぱり絵に描いたお伽話の様ではあるけど、必要で重要なことだと思います。そりゃトゥルーエンドやバッドエンドにすれば渋くて格好いいとも思われがちだけど、やっぱり「めでたしめでたし」の方が気分が良い。なんで「童話」「お伽話」は「めでたしめでたし」「いつまでも幸せに」で締めるのか。それはやっぱり子供達に、登場人物の行く末は心配要りません、安心して本を閉じてください、というおまじないだと思うからです。
ただし、(繰り返しますが)キムタクさんが受け取った遺産は「夫の股間を焼いて」「子供を失って」それをバネにしたのかどうか「アメリカに単身で飛び込んで」稼いだ遺産です。重い、重すぎる。お金持ちになったと遊びほうけるなんて許されないでしょう。なんか心配してしまうけど、あの運転手さんなら大丈夫でしょう。とりあえず本は閉じますが、どうかお達者で。
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