「アニメ化により、「楽園のゲルニカ」がきちんと伝わってくる」ペリリュー 楽園のゲルニカ sow_miyaさんの映画レビュー(感想・評価)
アニメ化により、「楽園のゲルニカ」がきちんと伝わってくる
自分が信じたいものだけを信じていられるフィクションの語りの中に、仲間と共に身を置いている連帯感や安心感。今で言えばフィルターバブルやエコーチェンバーによる集団分極化も同様だろう。それを上手く利用したのが旧日本軍であり、そこに、多くの人々が思考停止しながら、熱狂して賛同したり加わっていったりした結果が先の敗戦だと思っている。
とりあえず「天皇陛下万歳!」と言っておけば問題ないし、敵や、時には裏切り者の味方を殺すのも家族の幸せ(お国のため)という大義名分のためだし、第一、何かまともに考えようとしても空腹過ぎて考えられない。
そうした状況は、外側からみると、理不尽かつ哀れでしかないが、もしも自分がその中の一員だったとしたら、冷静な行動はとれるのか。
いささか心許ないのも事実だ。
だからこそ、今作において、圧倒的な兵力の差があり、勝敗も覆らないことが分かっていながら、突撃して死ぬことを選ぶ彼らの姿を、決して美化して描かなかったところに共感が持てた。
彼らは、当然持っていたであろう諦めや自暴自棄の気持ちを、彼らそれぞれのヒロイックな物語で覆い隠して、最後はそれに殉じるしかなかったというのが、中盤の突撃の姿なのだと思う。
そこからが、今作の本編。
勇ましい戦闘場面ではないところに時間を割き、キャラクター以外はリアリティある描き方をして世界観を構築していたところに好感が持てた。
実は、アニメ化の話を聞いて危惧していたことが二つあった。一つは、声優をつとめる役者のビジュアルが邪魔して、自分がイメージしてきた登場人物とそぐわない色がついてしまうこと。もう一つは、エンタメ化によって原作のもつ誠実さが犠牲になること。なので、公開されてからも視聴をためらっていたが、少なくとも、自分にとって残念な作品ということはなかったし、戦後80年の今年のうちに、劇場で観ておいてよかった作品だった。
今作によって、遺骨収集活動や慰霊がより進むことを願っている。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。
