「重い史実」ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男 バラージさんの映画レビュー(感想・評価)
重い史実
今年の春先に地元で公開されたが、どうしようかなと迷ってるうちに見逃してしまい、レンタルDVDで観た。えらく説明的な邦題だが、原題を直訳すると「総統と誑かし(たぶらかし)」になるらしい。
ナチス・ドイツ政権の宣伝大臣だったヨーゼフ・ゲッベルスの伝記映画で、オーストリア併合直前の1938年から、ヒトラーの自殺を見届けた後にゲッベルスが自殺した1945年までを描いている。冒頭から監督のメッセージや断り書きの字幕がいろいろ出てきて、それが結構長い。それだけゲッベルスやヒトラーやナチス政権を直接描くことにいろいろと慎重になる必要があったんだろう。入念な史実のリサーチが行われたとのことで、実際の記録映像も大量に交え、ゲッベルスとヒトラーらナチスのプロパガンダが描かれていく。その一方で性的に奔放で好色だったというゲッベルスの家族関係や私生活も詳細に描かれるのが興味深い。ヒムラーやゲーリングやリッペントロップといった他のナチス・ドイツ高官も登場し、彼らの勢力争いを含めた微妙な関係性なども描かれている。
とにかく印象に残るのが、よくこれだけ残ってるなぁというくらい記録映像が出てくることで、ある意味関心させられると共に戦慄もさせられる。本物のゲッベルスやナチスおよび当時のドイツの所業の映像が、フィクションというか俳優が演技してる本筋のシーンとモンタージュ的に融合されて映画に格段のリアリティを増している。なお実際の記録映像には死体や処刑のシーンもあり(ゲッベルス一家の死体のシーンもある)、心臓の弱い人などは視聴に注意を要する。
またゲッベルスが主導して製作された悪名高い反ユダヤ主義プロパガンダ映画『ユダヤ人ジュース』や、大戦末期の戦意高揚プロパガンダ映画『コルベルク』の映像なども出てくるのも興味深かった。高官たちがユダヤ人の“処理”について話すシーンも多いが、淡々と事務的な会話が行われるのがなんとも恐ろしい。ドイツ映画らしく娯楽映画的要素は抑えられ、非常に重みを持って描かれる社会派歴史映画だった。やはり映画館で観るべきだったかな。
