「再現VTRに実際に映像を混ぜる手法なので、、唐突にヤバい映像が出てくるので注意しよう」ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
再現VTRに実際に映像を混ぜる手法なので、、唐突にヤバい映像が出てくるので注意しよう
2025.4.15 字幕 アップリンク京都
2024年のドイツ&スロバキア合作の映画(128分、PG12)
これまでのナチスの扇動動画を交えて構成されるヨーゼフ・ゲッべルスの半生を描いた伝記映画
監督&脚本はヨアヒム・A・ラング
原題は『Führer und Verführer』で、直訳すると「指導者と誘惑者」という意味
物語の舞台は、1938年のドイツ・ベルリン
ナチス第三帝国の総統アドルフ・ヒトラー(フリッツ・カール)は、宣伝大臣のヨーゼフ・ゲッべルス(ロベルト・シュタットローバー)に、「愛国心を持てるように」という方針でプロパガンダ映画の制作などを命じていた
だが、ゲッべルスは「ヒトラーを伝説にしたい」と考えていて、彼が神格化するような方策ばかりを打ち出していった
主に、映画を軸とし、メディアをコントロールするゲッべルスは、部下のヴェルナー・ナウマン(Dominik Maringer)や次席次官のカール・ハンケ(Moritz Führmann)に命じ、自身は映画監督のレニ・リーフェンシュタール(Helene Blechinger)に映画制作を打診していった
プロデューサーのフリッツ・ヒップラー(SaschaGöpel)を交えて、「オリンピア」という映画を制作したゲッべルスは、それによって国民の団結心が生まれていると感じていた
その他にも、ヒトラーがベルリンに入った時には大勢の人で街を埋め尽くして、少女に花束を渡させたりする
そう言った活動と並行するように、ユダヤ人の事件を誇張して、見せしめを行うようになっていた
ゲッべルスには妻マクダ(フランツィスカ・ワイズ)との間に5人の子どもを授かっていて、長男のヘルムート(Samuel Fischer、幼少期:Ferdinand Tuppa)でも年長に行かない年頃だった
また、彼には愛人のリダ・バーロヴァ(Katia Felin)がいて、さらにマクダはゲッべルスの部下カールと関係を持っていた
映画は、これらのゲッべルスの一連のプロパガンダを「プロパガンダを行う側」から描いていて、残酷描写は実際の映像に委ねられるが、かなり偏った思想と発言が展開されていく
前半は主にプロパガンダ映画を作り、後半になると演説の原稿を作成し、自軍や国民に奮起を促す方策が描かれていく
だが、戦況は徐々に悪化し、ソ連の裏切りが深刻化すると、その事実を隠蔽する方向へと向かっていくのである
実際にあった事実をベースに組み立てている作品で、演説の途中で本当の映像に切り替わるなど、シーンの連続の違和感を感じさせない作りになっていた
そういった中で唐突に映し出されるホロコーストの実際映像は生々しく、冒頭で注意喚起が促されるのもわかる気がする
映画自体が虚実を入り交ぜながらそれっぽく作っているところがあり、この手法は映画内のプロパガンダ映画の制作と似ているように思う
見せたいものが真逆になっているのが凝っているところで、映画にリアリティを持たせる映像を挿入することによって、正常な判断を奪っていく
どこまでが本当かを考えさせずに、これが本当のことなんだと思わせるように、大きな嘘を隠すための小さな嘘が入り混じっていく
本作にも色々と誘導するようなものがあると思うが、そのひとつが冒頭の但し書きであり、最後にはホロコーストの生き残りの老女の映像に別の生き残りの言葉が引用されたりしている
映画のラストに登場するのは「margot friedländer」という老女だが、最後に引用される言葉は「Primo Levi」だったりする
ちゃんと観ていない(老女登場の時に左下に名前が出てくる)と、あたかもMargot friedländerがあの言葉を残し、彼女の名前がPrimo Leviであるかのように見えてしまう
これは翻訳と字幕をどこに設定するかという映画配給社側の問題であるものの、こう言った細かな部分もきちんと見落としてはだめだよというサインのように思えた
いずれにせよ、Primo Leviの言葉は「“We must be listened to: above and beyond our personal experience, we have collectively witnessed a fundamental unexpected event, fundamental precisely because unexpected, not foreseen by anyone. It happened, therefore it can happen again: this is the core of what we have to say. It can happen, and it can happen everywhere.”(「私たちの声に耳を傾けなければなりません。個人的な経験を超えて、私たちは集団的に、根本的に予期せぬ出来事を目撃しました。予期せぬからこそ、誰も予見できなかった根本的な出来事です。起こったからには、また起こり得る。これが私たちが言わなければならないことの核心です。起こり得る、そしてどこでも起こり得るのです。)」という文章の一部分を切り取っていることを知らずに映画館を後にする人も多いと思う
そう言った背景も含めて、受け取る情報に対して自分なりの見解を持ち、手間をかけて与えられた情報をたぐるという習慣も必要になってくる
ある意味、切り抜き動画全盛期に公開されているのは皮肉のようなもので、映画自体の仕掛けに配給側も乗せられているところが映画のメッセージを色濃くしてしまっている
ちなみにタイトルロゴと老女の名前だけがあの書体になっていて、冒頭のメッセージとラストの引用が違う書体になっている
老女の名前が映画のタイトルコールに感じた人もいると思うので、そのあたりにも含めて細かな仕掛けがあったのかなあと感じた
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