「思わぬご褒美、上映後の舞台挨拶」陽が落ちる 椿六十郎さんの映画レビュー(感想・評価)
思わぬご褒美、上映後の舞台挨拶
物語は、お役目をしくじり蟄居中の武家家族の最後の2日間をじっくりと見せてくれる
登場人物も必要最低限なのだが、出てくる人物に一人も無駄が無い
主役は、ちょっと頼りなくも穏やかでやさしい旗本、その妻良乃殿
彼女の夫への寄り添い方から息子、奉公人への接し方は、武家の妻そのものであり
いつも凛として厳しさと優しさに溢れていて、観る者を引き付けていく
冒頭、蟄居中の久蔵の正式な処分が「切腹」と決まったことを役目上最初に知らされた彼の旧知の親友江藤伝兵衛は、正式に本人に知らせる明日(それは切腹当日というルールというからむごいと言わざるをえない)を前に、本人に会って伝えたいと考えるがその行為がご法度であることに思い悩む。こちらも伝兵衛のご内儀が「直接会うのはご法度でも会わずに詩で伝えては」そっとアドバイスする
伝兵衛は久蔵の屋敷門の前で名も告げずに、門越しに良乃殿に詩を聞かせる
良乃殿の顔色は見る見るうちに厳しくなっていくのがわかるがそれでも決して取り乱さない
全てを悟った良乃殿がその歌を主人久蔵に伝える・・・・
残された1日を家族で大切に使う時間が持てた中で、良乃殿はうろたえる久蔵や奉公人たちを厳しく愛情こめて諫め、諭し、涙を押し殺して最後の時まで「武家の妻」としての姿勢を崩さずに貫く
涙もろい私は、伝兵衛が、親友久蔵が理不尽な切腹をしなければならないことに憤怒するところで泣き、涙をこらえて詩を門越しに読む伝兵衛とその詩を聞く良乃殿に泣き、奉公人のしげさんが即座に暇をだされて帰った実家で、病気がちの父から「最後までご恩を返してきなさい」という言葉に泣き、下男のお武家のルールの理不尽さへの恨み節を語りつつ、奥方(良乃殿)を気遣って「生き続けてください」という言葉に泣いた
ラストシーン、文字通りすべてを失った良乃殿の、物語の冒頭からずっと堪え続けていた本当の心の想いを、文字通り全身から噴出させ爆発させるあのシーンがとっても良かった
また、時代劇などではいとも簡単に「はい、切腹」という様子が描かれているが本来のその刑罰の沙汰を受けた者とその家族縁者たちの苦悩はどれほどであったかを、この映画はじっくりじわじわと我々に味わせてくれる まさに「理不尽」の一言
上映後の舞台あいさつで柿崎監督が「この映画の撮影は時間の流れ通りの完全順撮り」だったと語っておられました また、撮影に使われた旧家のあの切腹の部屋は、実際に昔切腹が執り行われた部屋なんだそうです。印象的な御門も調べれば聖地巡礼が出来るかもしれませんね。他にも前川泰之さん(江藤伝兵衛役)出合正幸さん(古田久蔵役)、そして主役の竹島由夏さん(吉乃殿役)にお会い出来、撮影の裏話に笑顔をたくさんもらいました
柿崎監督が、次は前川さん主役でこのメンバー全員参加で3.11の東日本大震災時の自衛隊員の活躍を描く映画を撮り終えているそうです。公開時期についてははまだ解禁になっていないそうですが絶対見たい!