「意匠を凝らした夢の世界に、わざと醜悪なものを混ぜ込む監督の世界観が合うのなら。」チャーリーとチョコレート工場 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
意匠を凝らした夢の世界に、わざと醜悪なものを混ぜ込む監督の世界観が合うのなら。
甘くて、毒々しくて、ファンタジーのようで、SF要素も入る。
ああ、グリム童話も、イソップ童話も、容赦ない結末が待っていたなと思う。
でも、〇〇だけはハッピーエンド。
チャーリーの物語から、急にハッピーエンドに舵を切る。
ああ、そうか、毒親と、その影響を受けた子どもの話。教訓話?
罵詈雑言を聞かせないように、チャーリーの耳をふさぐ父を始めとして、互いに思いやる家族の元で育ったチャーリー。そのチャーリーの選択。それが…。
己の欲にのみ忠実なモンスターチャイルドと、それを助長する親への結末は、申し訳ないけれど、快く。映画だし。
そして、ウォンカの世界を、ただただ尊敬と愛着の念をもって驚いて喜んでいるチャーリー。1番を奪う気すらなく。そんなチャーリーを演じたハイモア君の笑顔がまぶしすぎて…。
と、子どもたちと役者を見ている分には面白いのだが。
原作未読。旧作未鑑賞。なので、比較はできず。
どこからどこまでが原作に忠実なのだろう。
チャーリーの家の造形、庭園・研究室・ナッツ選別室・テレビ室、エレベーターの意匠は見事。
なのに、歓迎の式典。人形を燃やす必要ある?
単なる観光ではないんだよと、君たちを待ち受けている物はこんなものなんだよと先制攻撃?気分が下がる。
そんな感じで、目の前に広がっている世界観に酔いしれていると、ふっと醜悪さが差し込まれる。
きれいな色に差し色をして、より美しさが際立つようにしているのではない。
場合によっては、自分で自分の作品を踏みにじるような感じ。
これが、監督の持ち味なのだろうか?
役者は手堅い。
子役もその特徴を際立たせる演技。
オーガスタスはどこまでも考えなしに意地汚く。
バイオレットとベルーカ、マイクは憎々しく。
ウィリーの子ども時代は、その、シザーハンズ並みの装着物と相まって、哀れを誘う。
彼らと際立たせるかのように、チャーリーの笑顔がまぶしい。
ノア・テイラー氏と、ヘレナ・ボナム・カーターさんが出てきて、一波乱あるのかと思ったら、とても素敵な両親だった。正直、拍子抜け。でも、鑑賞し終わって、デップ氏相手に包み込むような愛を示せる人を演じられるのは、このお二人しかいないと思うほど、ラストがしっくりくる。
ディップ氏は、相変わらず繊細な演技が素晴らしい。それでいてのコメディセンス。
そして、改めて、こんなにきれいな方だっけと見惚れてしまう。
他にも名優たちが出演されているのだが、割愛。
ただ、ウンバ・ルンバだけは特筆しなければ。それだけが残ってしまうほど。
とても、作りこんだ映画なのだが、ファンタジーに酔うと汚され、ブラックユーモアかと思うと教訓が鼻に着く。教訓話かと思うと、主人公は、実は、ささやかなる盗みをしていたりする。
総てにおいて、中途半端で浸りきれない。それが監督の意図・持ち味と言われればそれまでなのだが。計算しつくして、陰と陽、表と裏を見せているようにも見えず。ただ、美しいものができかけてくると衝動的に汚しているように見え…。
もどかしさが後に引く。
