劇場公開日 2025年5月2日

「群集心理が生み出す恐怖」ロザリー TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5群集心理が生み出す恐怖

2025年5月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

今週はどうしても観たい作品がなく、「敢えて選ぶなら」とピックアップしたのが本作。米国映画レビューサイトの評価も低くないし、カンヌ出品作品でクィア・パルム賞にノミネートされ、大変話題にもなったとの紹介文を当てにしてサービスデイの新宿武蔵野館へ。10時15分からの回はやや寂しい客入りです。
父(ギュスタブ・ケルベン)に連れられ嫁ぎ先であるアベル(ブノワ・マジメル)の宅へ訪れるロザリー(ナディア・テレスキウィッツ)。口数少ないロザリーは一見醜いわけではなく「何か訳ありか?」と勘繰りつつも、この妻になる女性が自分の停滞気味の暮らしに変化をもたらしてくれることを期待しているアベル。翌日、結婚式を済ませ義父も帰り、いざ初夜を迎えようとしたその時、それまでひた隠しにされてきた「ロザリーの秘密」が明かされます。
二人が暮らすのは小さな田舎町。そしてこの町の産業を支え、事実上の権力者であるバルスラン(バンジャマン・ビオレ)の存在に町人は極力目立たぬよう生きていて、町に活気は感じられません。そんな中に忽然と現れる「異質な存在」であるロザリー。人は未知なるものに好奇心を抱き、また反対に恐怖心をもつ者もいて小さな町は束の間、良くも悪くも浮足立ったような状況になります。そして他の誰よりも戸惑いを隠せないのが「ロザリーの夫」であるアベル。いつまでも息が合わない夫婦の関係性とエスカレートしていくロザリーの選択が、異物排除をもくろむバルスランにきっかけを与えることになるのですが、その際の町人の中で起こる「群衆心理」が実に恐ろしく、比喩ではなく観ていて本当に震えました。
ロザリーのモデルとなったクレマンティーヌ・デレが生きた1870年代の時代感で見れば、むしろ意外性のない人々の言動はしっかりとリアリティがあり、決して「おとぎ話」にはしていません。そのため、終始「こうなればいいのに」に近づくも届かない展開は削られて辛いのですが、だからこそこの作品の「メッセージ」が強く伝わり、身につまされる作品に仕上がっていると思います。
そして何より本作の「重要なテーマ」、終盤に進むにつれて段々と「夫婦」になっていく二人、そして「愛」。ラストシーン、ロザリーが見せる表情に少しだけ救われつつも、その儚さしかないエンディングに涙腺を刺激されて強く印象に残ります。
消極的に選んだのに、結局は観て良かったと思える本作。ナメててごめんなさい。好みの一本でした。

TWDera
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