「日常の中の普遍性」おばあちゃんと僕の約束 赤ヒゲさんの映画レビュー(感想・評価)
日常の中の普遍性
タイ映画は、あまり観た記憶がなく、とても新鮮でした。主人公は、大学を中退して毎日ゲーム三昧のエム(プッティポン・アッサラッタナクン,ビルキン)。日本もタイも似たり寄ったりだなと思いきや、いきなり大胆な行動に出てビックリしました(汗;)。不純な動機で始まった祖母メンジュ(ウサー・セームカム)の介護ですが、そんなに突飛な事件が起こるわけでも、奇抜な人が登場するわけでもなく、淡々と祖母と孫の日々が描かれますが、なぜか引き込まれます。エムの母(サリンサット・トーマス)、その兄や弟、メンジュの兄といった具合に、少しずつ大家族の面々が登場するうちに、家族間にあるしがらみや格差や考え方の相違などが露わになります。わずか16ページの原案を監督と脚本家で2年以上かけて練り上げたという脚本は、さりげない日常をしっかり掘り下げて、辛辣にもコミカルにも見えるような深みのある描写にハッとさせられます。本作が長編映画デビューになるパット・ブーンニティパット監督が影響を受けたという中に、小津安二郎監督や是枝裕和監督の名前があったのも納得でした。100回以上のオーディションで見出されたメンジュ役のウサー・セームカムの自然な演技もよかったし、何よりもエム役のビルキンに魅了されました。何しろ不純な動機で始めた介護ですが、祖母との生活や親族との関係の中で少しずつ彼が変化していく様子がとても自然体であり、かつとても共感できたのが今作の最大の魅力だろうと感じました。タイトルの意味がわかったとき、エム青年と同じくらいの驚きと感動がありました。タイでは、伝統的にホラー、コメディ、ハリウッド映画が興行収入の上位を占める中で、本作のような家族の映画が2024年の2位になるのは、本当に珍しいことらしいです。オープニングに重なるラストシーン、じ~んと染みました(涙)。
いい作品でしたね。
なかなかに辛辣な映画でもありました。
「子孫のために美田を残すな」という言葉がありますが、かえって残すような財産がない方が幸せなのかもと思いました。