劇場公開日 2025年6月13日

「新人女優(78歳)の自然体の演技」おばあちゃんと僕の約束 toshijpさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 新人女優(78歳)の自然体の演技

2025年7月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

幸せ

癒される

俳優の資質というのは必ずしも演技の勉強をしたとか
何年も修業を積んだとか、そういうことで開花するとは
限らない、そう思わせるおばあちゃんの演技。

この映画が長編映画初出演というウサー・セームカムが
非常に良い味を出している。自然体の演技がとても良かった。

彼女の人生経験が演技に役立ってはいるだろうが、人生経験を
たくさん積んだ人が皆良い役者になれるわけではない。

その辺にいるおばあちゃんを連れてきて演技をさせたって
台詞を棒読みするのが精いっぱいで、役を演じることからは
ほど遠くて見るに堪えない場合がほとんどだろう。

画面に映る彼女は祖母メンジュがそこにいるという佇まいで、
人気俳優のビルキンことプッティポン・アッサラッタナクンや
他の役者さんたちに負けない存在感を放っていた。

オーディションで彼女を選んだ人の目に狂いはなかった。

バンコクに住むある家族。一人暮らしをしている祖母のメンジュが
ステージ4のガンに侵されていることが判明して物語が動き出す。

冒頭の墓参りの場面から淀みなく話が進む。息子・娘、孫たち
との関係性がどこにでもいそうな家族の姿として描かれる。

脚本の妙で、登場人物それぞれが話す言葉が人物像を反映した
生きた会話になっていて引き込まれる。

映画の中の家族は中華系で、子孫の繫栄を願って立派な墓を建てる
とか、観音様にお祈りするとか、タイ人の中でも独自の風習がある
のが興味深かった。

おばあちゃんが毎朝早起きしてタイ式お粥を売って生計を立てて
いるとか、庶民の生活ぶりも描かれる。日銭を稼ぐ慎ましい生活。
一方で息子や孫世代になるといかに楽をして金銭的に豊かに
なるか、そんなことを考える者もいて対照的だ。

映画の題にある”約束”とは何なのかは終盤になってようやく分かる。
孫のエムに対しておばあちゃんが何を遺してくれたのか?これが
一つの山場となる。

公式サイトによると、本国タイでは鑑賞後に号泣する観客の様子を
SNSに上げるブームが勃発したとのこと。

自分の感想は”心温まる良い映画”ではあるが”号泣”まではない、
といった感じ。

泣く人がいてもおかしくないが、SNSのブームは主演俳優のファンが
感想を”盛って”いるのでは?と邪推。日本でもアイドル主演映画の
口コミ評価が異様に高い傾向があるのでそれに近い気がする。

それはともかく、過剰な演出を避けて家族の自然な姿を描いた本作は
観て良かったと思う。静かなピアノの音楽も映画に合っていた。

俳優でありミュージシャンでもあるビルキンが歌うエンディング曲も
余韻に浸らせてくれて良かった。一点だけ違和感があったのは
歌詞の เธอ が 君 と訳されていたこと。映画の内容から
おばあちゃんへの思いを綴った歌だと思うが、祖母を君とは
あまり言わないだろう。

toshijp
Mさんのコメント
2025年7月14日

途中まであまりの打算的な行動に嫌気がさしていましたが、最後は落ち着くべきところに落ち着き、とてもほっとしました。
でも、遺産のこととかあると、実際、どんなに仲のよい家族でも、多少なりとも同じようなことはあり得るように思いました。
その意味で、きれいごとだけではなかった本作は心に残ったのだと思います。

M
Mさんのコメント
2025年7月13日

よい映画でした。

M
かばこさんのコメント
2025年7月12日

静かなピアノの曲が、合っていましたね。

かばこ