「ニックとジュディの関係性を更に深掘りした、待ちに待った続編!」ズートピア2 緋里阿 純さんの映画レビュー(感想・評価)
ニックとジュディの関係性を更に深掘りした、待ちに待った続編!
《吹き替え版》にて鑑賞。
【イントロダクション】
前作(2016)から約9年の時を経て、ニックとジュディのコンビが帰って来た!今回は、お互いに警察官として正式にコンビを組んだ2人が、ズートピア誕生に纏わる陰謀を追う事になる。
監督は、前作に引き続き、『ミラベルと魔法だらけの家』(2021)のバイロン・ハワード。監督・脚本には前作でも脚本に参加した、『モアナと伝説の海』(2016)のジャレド・ブッシュ。
日本より一足先に劇場公開を迎えた全米を含む世界各国では、初週末5日間のオープニング興収約5億5,600万ドルを記録し、ディズニー・アニメーション映画史上最高の世界オープニングを記録。また、実写映画を含むオープニング興収としても、世界歴代4位(『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォ一』(2018)、『スパイダーマン/ノー・ウェイ・ホーム』(2022)に次ぐ)という大記録。
【ストーリー】
前作でベルウェザー元市長の企みを阻止した、ジュディ(声:ジニファー・グッドウィン、吹き替え:上戸彩)とニック(声:ジェイソン・ベイトマン、吹き替え:森川智之)は、ニックが晴れてキツネ初の警察官となった事で、正式にバディを組む事になり、1週間が経った。
ズートピアは市制100周年を迎え、新市長には元俳優のウィンドダンサー(声:パトリック・ウォーバートン、吹き替え:高嶋政宏)が就任していた。
ある日、ズートピア警察(ZPD)は波止場でアリクイによる密輸の情報をキャッチ。署長のボゴ(声:イドリス・エルバ、吹き替え:三宅健太)は、バディとしての振る舞いを先輩達の活躍を見て学ぶようジュディとニックに待機の命令を言い渡すが、当の本人達は単独で覆面捜査を開始していた。正体がバレ、アリクイの逃亡を追跡した結果、街は大混乱。ジュディは、密輸品のコンテナの中にヘビの脱皮した皮と思しき物体を発見するが、ボゴ署長をはじめとした先輩達は完全に御冠。
ニックとジュディは、現場を外れてパートナー・セラピーを受けるよう命じられる。コンビ結成早々、解散の危機に晒され落ち込む2人。帰宅後、それぞれのアパートで過ごす中、ジュディはリンクスリー家に代々伝わる手帳のニュース映像に、アリクイが運転していたキッチンカーと同種の車両を発見する。ポッドキャストで陰謀論を唱えるビーバー・ニブルズ(声:フォーチュン・フィームスター、吹き替え:江口のりこ)の番組によると、リンクスリー家の手帳は100年前に毒ヘビに盗まれそうになって以降、ズートピアでヘビを見た者は居ないという。
ジュディはニックを連れ、リンクスリー家のパーティー会場へと向かう。用意していた変装道具でパーティー客に成りすまして潜入する事を提案したジュディは、会場付近の駐車場に複数台のキッチンカーを発見。ジュディは、その中でも温かく車体に雪の積もっていない車両に目を付ける。ズートピアは、特殊な技術で気候別にエリアを分けているが、雪に覆われた冬寒いこの地域で、冷血動物であるヘビを運ぶには、車内を温かく保つ必要があるからだ。
会場に潜入して、公開された手帳を目の前にしたジュディだったが、リンクスリー家のパウバート(声:アンディ・サムバーグ、吹き替え:山田涼介)に声を掛けられる。ジュディの活躍から、彼女に憧れを抱くパウバートは、一族からは「出来損ない」の烙印を押され、浮いた存在だった。
そんな時、会場に潜入していたヘビのゲイリー(声:キー・ホイ・クァン、吹き替え:下野紘)が姿を現し、会場はパニックに陥る。ヘビは手帳を盗んでリンクスリー家の現当主・ミルトン(声:デヴィッド・ストラザーン、吹き替え:梅沢富美男)を連れ去って逃亡を図るが、ジュディは逃亡するヘビを追跡する。ヘビは、リンクスリー家こそが悪者であり、盗んだ手帳には一族の汚名を晴らす手掛かりがあるのだと言う。
ヘビを信じかけるジュディ。しかし、ヘビは駆け付けたニックにKOされてしまう。だが、現場の混乱の中、ボゴ署長がヘビの毒に倒れてしまい、誤解からニックとジュディはヘビの協力者として指名手配されてしまう。
2人は、暗黒街のボス・Mr.ビッグ(声:モーリス・ラマーシュ、吹き替え:山路和弘)の助言で、偽の身分証を渡され逃亡生活を提案されるが…。
【感想】
前作から約9年、スピンオフこそあったよう(未鑑賞)だが、待ちに待ったようやくの続編である。正直、前作の興行的・批評的大成功からすると遅過ぎたくらいである。
本作でも、個性豊かな動物達がそれぞれの魅力で物語を盛り上げている。
《ニック&ジュディ》
本作でもジュディ&ニックのコンビの魅力が炸裂しており、特にニックのジュディに対する思いが素晴らしい。
「初めて出来た友達、大切な相棒を失いたくない」という思いから、ニックはジュディの行動に異を唱え、時にジュディの態度に不満を抱きもする。しかし、それらは全て「ジュディの無事を最優先」に考えればこそ。ニックの行動は、その一点に終始一貫しており、口下手で皮肉屋な彼がクライマックスで思いの丈を打ち明けるシーンは、本作一の名シーン。ニック好きには堪らないだろう。
一方で、本作でのジュディの行動には思う所がある。前作は、ジュディが小型なウサギであるが故に、「警察官には向かないから」と周囲から不当な扱いを受ける中で、諦めずに「世界をより良くしたい」という思い(そして、少なからず「手柄を立てて、皆に認められたい」という思い)から、果敢に事件解決に挑む姿を応援する事が出来た。だが、本作では前作の事件解決によって既にジュディは市民のヒーローになっている。なので、本作のようにニックや周囲の忠告を無視して独断専行で捜査する姿は、例えその根底に「世界をより良くしたい」という思いがあろうと、冒頭の先輩や上司の命令を無視しての捜査の時点から少々行き過ぎており、それがウォーター・チューブの件でニックとのコンビ仲に亀裂が走るように、煩わしく見えてもしまう。
それでも、互いの違いを認め合い、コンビとして事件解決に挑む姿は、往年の刑事バディ作品のような抜群の安定感を感じさせる。すっかり立場が固定され、ジュディがニックを振り回す姿は、『ビバリーヒルズ・コップ2』(1987)や『48時間PART2 帰って来たふたり』(1990)を思わせる(どちらもエディ・マーフィ主演)し、その他にも刑事バディモノとして『バッドボーイズ』シリーズ(95、03、20、24)のマーカス&マイクコンビも脳裏を過ぎる。『ビバリーヒルズ・コップ』『バッドボーイズ』繋がりで言うと、シマウマ警官コンビのゼブルスの衣装が、まさにそれらを彷彿とさせる。
《ゲイリー・ダ・スネーク》
青い体表の毒ヘビ・ゲイリーは、一族が背負わされた不名誉な過去の歴史を払拭し、一族の名誉挽回を図って行動する。自身は毒ヘビだが、誤って噛んでしまった場合に備えて、毒消しを常備しており、性格はいたって温厚。
ポスタービジュアルでニックとジュディを絡め取っていたり、タイトルの「2」を彼の身体で表現している事から、本作でニックとジュディが更に絆を深めていく、あるいは2人の関係性に亀裂を生む為のキーパーソンになるかと思っていたが、実際のところはパウバートと行動を共にしており、ジュディとは中盤になってようやく関わり合いになる為、積極的に物語に絡んでいたとは言いにくい立ち位置。ニックとまともに関わるようになるのは、クライマックスに差し掛かってからである。その点に関しては、正直期待はずれといったところ。
《ニブルズ・メープルスティック》
ポッドキャストで陰謀論について語る、陽気で変わり者のビーバー。故郷のマーシュ・マーケットを案内する様子や、ニックの背中を後押しする姿が印象的で、キャラ立ち具合で言えば、本作からの参加キャラクターの中で1番魅力的だったように思う。ビーバーらしく木を齧って刑務所の鍵を作る様子はお約束。
《パウバート・リンクスリー》
冷酷で傲慢なオオヤマネコ一家のリンクスリー家において、出来損ないとして一族からハブられている青年。ジュディに憧れを抱き、ゲイリー一族の名誉挽回を後押しする好青年として描かれるが、実は本作の黒幕であり、その目的は「手柄を立てて、一族に認められる事」だ。その動機は、まるで「皆に認められたい」と奔走していた前作のジュディのダークサイドを見ているかのようでもある。
吹き替え声優を務めた山田涼介の演技が素晴らしく、それまでの優しい青年から一転、目的の為にはジュディやゲイリーを手に掛ける事も厭わないリンクスリー家らしい冷酷さを露わにしてからの演技の振れ幅が良かった。
《ミルトン・リンクスリー、キティ、キャトリック》
ズートピア誕生の際、発案者のゲイリーの祖先を騙して手柄を横取りした悪しき一族の歴史を受け継ぎ、自分達も利益の為に傲慢で冷酷に振る舞う。最初から悪役然として登場し、最後は真の正義に目覚めたウィンドダンサーの前に敗れ去る。その振る舞いはステレオタイプ的で、悪役としての魅力は、前作の黒幕にして本作でも引き続き登場となるベルウェザーの強かさの魅力には完全に劣ってしまっている。
《ベルウェザー》
前作で肉食動物を貶めて、ズートピアを草食動物の楽園に仕立てようとした黒幕として逮捕され、本作では刑務所に収監されている。しかし、狡猾で強かな本性を隠す必要がなくなったからか、本作ではまるで「私がボスよ」と言わんばかりの振る舞いに加え、独房に自分の毛で作ったソファーを置いたりと、刑務所生活もそれなりに満喫している様子。しかし、ニックが脱獄する隙に自らも脱獄するという抜け目なさ。ラストでは国外逃亡まで企てていた様子で、転んでもタダでは起きないその強かさは悪役ながら天晴れ。
《ウィンドダンサー》
ウマの新市長・ウィンドダンサーは、筋骨隆々で自信に満ち溢れたその佇まいから、“ザ・ロック”ことドウェイン・ジョンソンを彷彿とさせる。映画スターから市長という経歴で言えば、映画スターからカリフォルニア州知事になったアーノルド・シュワルツェネッガーも思わせる。そして、ラウンドキックが得意であり、パンフレットに掲載されたコンセプトアートの2台のトラックの間で開脚する姿はジャン=クロード・ヴァン・ダム。てんこ盛りだなこのキャラクター。
前作に引き続き、本作でも名作映画オマージュが盛り込まれており、それを発見するのも楽しい。
ニトロエンジンに点火して加速するのは『ワイルド・スピード』オマージュだし、が逃げ込む雪原の生垣の迷路は『シャイニング』オマージュ(しかも、の表情は完全にジャック・ニコルソンのそれである)。
【復習にも最適!見て楽しい、読んで楽しいパンフレット】
パンフレットの内容の充実具合も良かった。一緒に前作の復刻版パンフレットも買ったのだが、冊子の厚さが前作の2倍になっており、キャラクター紹介やコンセプトアートの掲載にページを割いており、眺めているだけで楽しくなる。また、今回は簡単ながら吹き替え版キャストへのインタビューも掲載されており、演者がどのような姿勢でキャラクターに向き合ったのかが伺える。
そんな中でも、やはり色彩豊かなコンセプトアートの数々が見ていて楽しい。キャラクターの表情の特徴や衣装に至るまで、細部にまでとことん拘って作られているのが分かる。
【総評】
前作でバディとなったニックとジュディの関係性をより深掘りし、本作では「互いの違いを認め合って進むこと」の大切さを教えてくれる。
新登場キャラクターの数々の魅力が、前作からの登場キャラクター達に負けている点は気になったが、やはりニックとジュディが事件に挑んでいる姿は見ているだけで楽しい。
世界各国での圧倒的なロケットスタートぶりから、更なる続編はすぐさまGOサインが出るだろう(もしかしたら、既に出たかも?)し、この世界観の更なる発展が楽しみだ。
エンドクレジット後の映像が示すように、次回は「鳥」がメインになるであろう事から、その点も期待したい。
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