「テーマが難しい……」ズートピア2 エルさんの映画レビュー(感想・評価)
テーマが難しい……
・良い点
一瞬たりとも退屈させるものか!
という執念さえ感じさせるほどテンポがいい。
アクション・ギャグ・会話・めまぐるしく変化する状況、
正直話についていけなくなる場面もちらほらあるほど早いテンポ感には善し悪しあるが、
それでもギュギュ~ッと詰め込まれたネタの数々には圧倒される。
嬉しいことに前作キャラ達も隙間隙間に上手いこと、
所狭しと登場してくれて話も画面も賑やかでたまらない。
更に今作から登場した新キャラ達も魅力たっぷり。
ストーリー自体もよく練り込まれていて、どんでん返しも一度ならず
二度三度とやってきて意外な奴が敵になったり味方になったりで目が離せない。
そしてきちんと相互理解に至るしっとりした場面も据えて緩急もある。
本当に長い時間をかけてシナリオを作り込んだのだろう。
近年のディズニーの中でもシナリオの出来は間違いなく上位だ。
・悪い点
今作は名作だと思っているが、個人的には欠点と感じる部分もある。
それが今作のテーマ。
今作で中心的に描かれる爬虫類──その象徴的存在としての『蛇』──は
かなり露骨にネイティブ・アメリカンなど先住民族を指し示している。
(爬虫類達は黒人のメタファーも背負っているので、
あくまでもその土地を追い出された人々、
悪としてレッテルを貼られた少数民族くらい広めに受け取るべきだとは思う)
更にネイティブ・アメリカンと同様、悪だったから土地から追いやったという、
支配階級にとって都合のいい歴史操作や、
そのせいで築かれた蛇への人種差別にも触れている。
今作のテーマとは植民地主義とそれに対する批判なのだろう。
正直、テーマがエンタメ作品で扱うには難しすぎる、というのを感じた。
現実において、先住民を追い出して利益を得たのは国家・社会全体である。
だから本来なら現在の国民がその場から立ち退き、奪われた先住民に土地を明け渡すべきである。
だが益はあっても罪はない国民にそんなことさせられない、という点に問題の根深さがある。
(更に言えば奪われたのは土地のみならず文化や経済格差など多岐にわたるのも難しい)
このテーマはアナ雪2でも扱われていたが、
アナ雪2では罪の償いとして国を津波に呑み込まれるべきとなるが、
結局魔法でなんとか救って先住民と和解する流れとなっていた。
今作ではどうしたかと言えば、
特許権を奪ったオオヤマネコ一家という個に、利益と罪を集中させて押しつけた形だ。
結果、悪党をやっつけ爬虫類達のデマを払拭しズートピアに迎え入れれば問題は解決する。
ここにディズニーの、そしてズートピア2のズルさがある。
問題そのものを簡略化することでエンタメ作品としての体裁を整えたが、
代償として、現実の問題の矮小化も同時に起こしてしまっている。
現実で言えば利益を得て無自覚の搾取をしていた筈のウサギのジュディや狐のニックを、
問題とは無関係な正義のお巡りさんに据えて、
マイノリティを「救ってあげて」コミュニティに「迎え入れてあげた」側になることにも違和感がある。
本来なら国家や国民が痛みを負わなければ解決できない種類の問題だと思うのだが、
映画では、無関係の主人公達が可哀想なマイノリティを救って物語が収束する、
痛みを伴わない痛快エンタメとして成立させてしまっている。
ここにどうしてもモヤモヤ感を覚える。
前作のテーマは『多種族間の偏見』という個人の問題だったため、解決や綺麗事も受け入れやすかった。
しかし今作は『先住民問題と過去の清算』という、そもそも解決策のない問題を扱っている。
そのためアナ雪2同様、解決の糸口が見えないテーマを選んだこと自体に、
「なぜわざわざ……」と首を傾げたくなる部分もある。
だが一方で、これは『子供向け作品としての最適解』でもある。
まずは「偏見を持たず、相手を知ろう」という理想を提示し、
「今ある生活は誰かの犠牲の上のものかも知れない」という気づきを与える。
やがて子供たちが成長し「現実は映画のように簡単ではない」と知った時、
この作品が(じゃあどうすればいいのか?)を考えるきっかけになるだろう。
『テーマ処理に難点がある=映画として失敗』ではない。
問題を単純化する「ズル」はエンタメとして成立させるための必要悪であり、
その欠点、違和感こそが、観客の心に棘を残し、考察を促すフックにもなっている。
歴史問題とエンタメの両立というギリギリの線を攻めた本作。
観終わった後に感じるモヤモヤを抱え、現実の問題に思いを馳せることこそが、
この映画に対するひとつの向き合い方かなぁと思うのだ。
・結論
悪い点の話が長文になってしまったので、
作品をけなす方が主体のようになってしまったが、
総評としては近年のディズニー映画の中でも屈指の出来であることは間違いない。
(個人的には星つなぎのエリオも大好きだけど)
傑作だった1の続編というそれだけで難しいお題を正面から扱い、
“作品の出来”という一点で納得させてしまう今作は、
前作が好きだった人にも安心して勧められる熱量を持った名作だ。
・余談
ラストに鳥の羽が出てきましたね。
ズートピアには鳥類もいなかったし3では鳥が主役に?
しかしこうなると次はどういう問題をテーマに扱うのだろう。
渡り鳥がやってくる移民問題とか?
このアプリで初めてコメントさせていただきます。
非常に洗練されたレビューで圧倒されました。文章や内容の至るところからエルさんの教養の深さを感じ、感嘆しました。
エンタメ作品と決め付け、なんかごちゃごちゃした映画だったな~程度に思っていた自分が恥ずかしくなりました。
このような視点を分けていただき大変刺激になりました、素晴らしいレビューをありがとうございました。
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