「予告編の印象よりよかった」果てしなきスカーレット 彩雲さんの映画レビュー(感想・評価)
予告編の印象よりよかった
今までの細田作品とはテイストが異なるアートワークだったので注目していました。
しかし予告編を見て驚愕(悪い意味で)。急に足が遠のいてしまいました。
興行が芳しくないと聞き、どこか引っ掛かるものがありサービスディに鑑賞しました。
鑑賞前はなぜ声優を使わないんだと批判的な思いを持っていたのですが、芦田さんも岡田さんも予告編の印象より遥かに良い演技でしたし、皆さん素晴らしかったと思う。こんな声が出せるのかと驚きがありました。見応えのあるシーンも沢山ありました。
予告編の「どうしても復讐を~」「スカーレット 生きろ。」のセリフの部分は一番しんどそうな部分、棒読みに聞こえる部分に思えました。予告編を作った人はなぜあの部分を使ったのか、なぜあのような構成にしたのか? 宣伝として魅力的なシーン、惹きの強いシーンを凝縮する必要があると思うのですが…
最後まで見た感想としては、寓話的な手法で「隣人を愛せよ」というキリスト教的な思いを表現したかったのかなという印象です。
しかし設定や感情、思考をセリフにして説明してしまうという監督が書く脚本の弱さが際立って、感情移入を妨げる部分が多かったと思います。
名監督=名脚本家、黒澤明、宮崎駿や新海誠のような地位を渇望しているのでしょうが、脚本や構成は人に任せた方がいいと思います。
そしてツッコミどころが色々あるなと。
死後の世界にクローディアスや側近がいる、その時点でもう現実世界では仇敵は死んでいると察せられると思うのですが、現実世界での権力関係もそのまま死後の世界にスライドしているのは意味が分からず違和感がありました。
人権も何もなく、あらゆる時代、人種、性別、年齢の人々が集まる死後の世界で、生前と同じく権力を持ち得ることがあり得るのかと。
ダンスのシーンは再開発後の渋谷というのはやはり引っ掛かりますね。聖地巡礼とか開発企業とのタイアップなどが透けて見えて、商売根性というか経済効果を狙っている感が出ていて白けますね。
非暴力を徹底していた聖が弓を放つシーンに違和感を抱く人が多いようですが、私はやはり脚本でカバーできる部分だったと思います。
ここで「許せ」と聖が一言発するだけでまるで違うのに。キーワードをなぜ使わないのか不思議でした。
竜の存在もとても都合の良いアイテムとして用いられていて、スカーレットとクローディアスの最後のシーンはどう解釈したらいいのか?疑問が残りました。
スカーレットの臨死体験とすればそれで済んでしまうのかもしれませんが…
コロナ禍以降の世界の様相は現実がフィクションを超えている部分もあると思います。
人類が対峙する争いや殺し合いの連鎖、富や権力への欲望、あらゆるものを食いつくす人類。そうしたものに楔を打ち込むにはどうしたらいいのか。テーマとしては普遍的な内容だと思います。
しかし変われない人類の最先端にいる我々は現在進行形で度し難い出来事が起き続けている事を知っている。
スカーレットが生きた世界から数百年経っても。
中世世界に戻っていくスカーレットの無力さを突き付けられるような感じがして苦しかったです。
あと最後にスカーレットが聖に何度も言わせられる言葉。
違う意味に聞こえてしまう私は心が汚れているんでしょうね。
監督が好みの女優に思うままのセリフを言わせたい、そんな風に感じてしまいました。そうではないと思いたいですが…
この映画は多くの作品に触れていない青少年が見るべきだろうと思いました。
隣人、身の回りの人を愛すること、信じる事は簡単なようで難しい。
愛されない母へ愛を注ぐことはできるのか?
無償の愛とは。
砂漠の描写や剣と弓、泥臭い肉弾戦中心の中世ファンタジー世界は純粋に良かったです。
モブシーンも大スクリーンならではの迫力で中々見応えがありました。
今後このような世界観の作品が敬遠されることに繋がらないように祈りたいです。
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