劇場公開日 2025年11月21日

「復讐の連鎖を断ち切るという重厚なテーマに挑んだ力作」果てしなきスカーレット kozukaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 復讐の連鎖を断ち切るという重厚なテーマに挑んだ力作

2025年12月5日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

難しい

斬新

細田監督としては今までで最も重たく切実なテーマに挑んだ「新境地」とも言える作品。
それは太古の昔から今に至るまで続いている戦いの連鎖をどうしたら断ち切ることができるのかという壮大なテーマで、現実世界で未来が見えない過酷な現状からどうしたら未来の希望を見出せるのかという事。
その舞台として選んだのは略奪や暴力に満ちた「死者の国」だ。そこは現実世界と死後の世界の中間のような場所で砂漠のように荒涼として、空には時折巨大なドラゴンが現れ稲妻を落として去っていくような殺伐とした世界。力の無いものや傷ついたものは「虚無」となり消えてしまう。
ベースとなっているのはシェークスピアの「ハムレット」で有名な復讐劇。中世デンマークで、王であるアムレット(CV市村正親)は叔父のクローディアス(CV役所広司)に殺され王位を奪われる。王女スカーレット(CV芦田愛菜)は復讐しようとするが失敗し、異様な場所「死者の国」で目を覚ます。父殺しのクローディアスも同じ世界にいることを知り、改めて復讐に邁進する。その中で現代日本からこの世界に来た看護師の聖(CV岡田将生)と出会う。スカーレットと聖は旅をしながら暴力や抑圧に怯える民衆の姿を目の当たりにする。
復讐心に燃え攻撃的なスカーレットが、誰にでも分け隔てなく救いの手を差し伸べる看護師の聖の人柄に接し変わっていく展開を描くことで、細田監督は現代と過去が溶け合う「死者の国」で中世と現代の時空を超えてみせる。
ダンスシーンが唐突で意味がないと批判にさらされているが、全くそんなことはない。
太古の昔から人間は希望の拠り所として歌や踊り、ダンスに求めてきた。劇中死者の国の人がフラダンスを踊るシーンにも象徴される。スカーレットの気付きになるのが現代渋谷を舞台にした大サンバシーンでアニメーションならではの希望を表現することに成功している。
ただし、現代から未来の希望を描くためにはラストシーンは矛盾しているようにも思えた。
ほぼ全編「死者の国」の暗く重たい世界観で、哲学的、宗教的で難解な内容のためかつての細田守ファンからは批判的なのだろう。ただ、作家というものは宮崎駿しかり、表現が高度化、複雑化していく傾向にある。
細田監督は今作である意味行き着いた感があり、次作は日常的なテーマに原点回帰する可能性もあるような気がする。

kozuka
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