「世界観は良かったが心の中の陣内智則が抑えきれなかった作品」果てしなきスカーレット KVさんの映画レビュー(感想・評価)
世界観は良かったが心の中の陣内智則が抑えきれなかった作品
16世紀のデンマークのお姫様「スカーレット」が現代の日本人看護師「聖」と共に、憎き叔父を打ち倒そうとする復讐劇という世界観は興味があり、楽しみにしていました。以下、良い所と悪いところを箇条書きでまとめます。悪い所についてはツッコミも兼ねているのであしからず。
【良い所】
・細田守氏が描く死者の国という名の地獄の描写はダークな雰囲気がとても好みだった。
・死者の国には過去も未来も場所も関係なく迷い込む場所であるという設定で、様々な時代と人種が交わる壮大な世界設定は良い。
・作中の格闘描写は見ごたえがある(細田守氏の趣味なのだろうか?)。
【悪い所 or ツッコミどころ】
○世界観について
・「死者の国」は様々な時代・人種が交わる環境なのに、登場人物の大半はスカーレットの関係者で世界観が狭く感じた。もったいなさすぎる。なお、道中で様々な人種がいること自体は描写されていた(ハワイ、中東、ローマ、アジアの人種は居た?)。
・王様となった叔父が死者の国に居た理由について終盤明らかにはなったものの、叔父の部下達もあの世界に居るのは謎のままだった(スカーレットの父親の処刑に立ち会った4人ならまだしも、大勢の兵士までいる)。
・「死者の国」は死んだときの姿で迷い込むものと認識したが、もしそうであれば、叔父の部下たちは作中の時間軸から近いうちに死んだことになると考えられ、デンマーク国内が戦争などでとんでもない状況になっているのが想像できる。(まあ、そんなオチではなかったが。)
・スカーレットと聖が対面した時、「会話」について補足がなかった。16世紀のデンマーク人であるスカーレットと21世紀の日本人である聖では当然言語が異なる。死者の国では意思疎通は不思議な力でできるということで脳内保管した。あと聖、イタリア語読めるのか(「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ」の原語を読み解くシーンから)。
・叔父が「見果てぬ場所」に連れていくことを餌に部下たちを指示していたが、そんな曖昧なことで部下たちは従ってくれるのだろうか。作中の描写からあまり人望があるようには見えないが。
・「死者の国」について、物語序盤を除き現世とあまり変わらないという印象だった。食事をとる必要もあり、致命傷を負えば虚無(=死ぬ)となるのは、現実そのものではないか。もう少し現実とは違う設定が欲しい印象だった(死者の国なので食事しなくても困らない、とか)。
○登場人物について~スカーレット~
・スカーレットは長年復讐のために心身ともに努力を重ねていたのに、聖と数日過ごしてすぐにほだされる所は何とも言えない。
・聖に対する好感度について、初対面はともかく途中から急に好きになりすぎだろと感じた。渋谷ダンスの影響なのだろうか。
・設定では「16世紀のデンマーク王国」のお姫様という設定だったが、わざわざ具体的な時代と国を設定する意味はあったのか疑問に感じる。元ネタが「ハムレット」だからそう設定したと考えられるが、史実との整合性も取れないため意味をなしていない気がする。架空の王国のお姫様じゃだめだったのか?
○登場人物について~聖~
・嫌いではないが、お花畑な善人キャラという印象に見えた。不殺主義なのは現代日本人かつ医療従事者である設定なので理解はできるが、物語後半にスカーレットを助けるため敵を殺す描写は賛否が分かれる印象だった。
・キャラデザを見たとき、旧日本軍の軍人か自衛官あたりかと思っていたが、現代日本の看護師という設定は意外性を感じた。作中の活躍では医療スキル(銃創の治療までできる)だけでなく馬術・弓術スキルも高いが、馬術・弓術をどうやって身に着けたのか設定が特になかったのが少し残念。
・もう一人の主人公という認識で見ていたが、どうも作品の舞台装置にしか見えなかったのが残念。しかも、オチで実際には「○んでいた」ことが発覚し、かわいそうにもほどがある。(道中、現代日本の病院で集中治療室?のベッドに居た人物が、まさかとは思ったが・・・)。
○ミュージカル描写について
・例の渋谷ダンスの前に、キャラバンの人々と仲良くなった聖がハワイ系の女性とダンスをする描写があるが、「これ要るのか?」と感じた。
・渋谷ダンスについて、ダンスに入るまでの描写(よくわからない宇宙空間?)が無駄に長かったのが気になる。
・渋谷ダンス自体は「スカーレットがもし現代日本に居たらこんな風に楽しんでいたかもしれない」という描写なんだなとは理解できるが、背景のモブが現実感なく不気味さを感じた。
○物語終盤について
・終盤、叔父と再会して許すか許さないかで葛藤していたが、一瞬改心したように見えた叔父が結局クズのままだったのは面白かった。結局、スカーレットは結局復讐をやめることにし、叔父が隙を見てスカーレットに攻撃を仕掛けようとしたところでドラゴンの雷が直撃して虚無になった描写は、流石に都合が良すぎると感じた。(結局あのドラゴンはスカーレットたちの味方だったのか? 一度ならまだしも3回もピンポイントで雷落として助けるのはご都合主義にも程がある。)
・結局、終盤の扉はなんだったのか(開かずじまいだった)。
・スカーレットが現世に戻るとき、聖だけでなく他の登場人物も居たが、彼らはあの後どうなったのか。
・結局、スカーレットに色々説明したり手助けしていた婆さんはなんだったのか。
○まとめ
細田監督が作りたい映像と描写を優先し、それ以外の設定がテキトーである印象だった。おまけに、監督が見せたいものと世界設定がかみ合っていないように感じた(世界設定の風呂敷を広げすぎたのが原因ではなかろうか。)
この映画を見た人の大半が、脚本は他の脚本家に書いてもらうべきと思うのではないか。言いたくないが、一回見て10個以上のツッコミどころがあるのは脚本として破綻しているようにみえる。
映像や世界観のプロットは良いのだから、次回作を考えるのであれば良い脚本家をつけて頑張っていただきたいと思う。(個人的には万人向けよりもマニアックでダークな世界観を作るのが得意と思われるため、それを突き詰めてみるのもいかがだろうか。)
兵士が大勢いるし、戦争で惨敗したのだろうと思ってたので逆に驚きました。
クローディアスが死ななかった世界線から、とかなら理屈は通りますが、それだと何でもアリだし…
その他ツッコみどころ悉く共感します。
細田さんはロジカルに脚本を組み立てることが出来ないみたいですね。
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