「本当に嫌いにならないために、出ていくのもありじゃない?」ケナは韓国が嫌いで KaMiさんの映画レビュー(感想・評価)
本当に嫌いにならないために、出ていくのもありじゃない?
韓国社会の閉塞感のようなものが描かれるかと思ったら、そこはあっさり。ケナは優しくて裕福な彼氏に養われる道を選ばず、わけもなく周囲に当たり散らしながら海外移住を夢見る。この主人公にはだれもが言いたくなるだろう。「あなた、たとえ韓国から出てってもうまくいかないんじゃない?」と。
意外に早々とニュージーランドでの生活が始まり、バイトや英会話に苦闘するが、状況が打開されるわけでもない。付き合う彼氏は数か月ごとに変わり、細切れなエピソードが続く。見ているほうも何に感情移入していいかわからず、よるべない気持ちにさせられる。
そんな物語はグラデーションのように、少しずつ確実に進んでいく。テキトーに見える留学仲間やバイト先の同僚が意外と筋の通った生き方をしているのに接し、ケナの中で何かが変化する。外見も日焼けしてあか抜けて、ふてくされてばかりだった表情に笑顔が増える。
思うに、ケナは韓国の気候が合わないのもあるだろうが、一度は自分の力で環境を変えたかったのだろう。
ビフォー・アフターという単純な話ではなく、韓国での回想シーンをはさみながら展開するのは、「外に出た」立場から人生を見つめ直すような流れになっていると思った。
そして両親や妹、元彼といった人々がいかに温かく、でも自然にケナを見守っているかに気づかされる。ケナの中に隠れた思いやりが表に出てくる場面も増える。パズルのピースが徐々につながってくるような構成だ。
ケナの性格については好き嫌いが分かれるだろうが、自分の気持ちに嘘がつけない、周囲からすればなぜか「ほっとけない」タイプの人のようにとらえた。
途中で亡くなってしまう同級生が、別れ際にいつまでも手を振って、ケナに「もうわかったよ」と言われるシーンが忘れられない。
余談だが、この彼が前半に出てきた寒そうなサンダルの人だと気づくことができなかった。そんな分かりづらい部分も含め、もう一回見返したい。