「失政」フロントライン 眼鏡おじさんさんの映画レビュー(感想・評価)
失政
2020年2月、新型コロナウイルスの集団感染が起こったクルーズ客船『ダイヤモンド・プリンセス号』を舞台にその対応にあたった災害派遣医療チーム『DMAT』の活動を描いた作品です。
本来、DMATは阪神淡路大震災での教訓をもとに大規模災害が発生した現場において、おおむね48時間以内に初期医療を行うことを目的とした『有志の』医師・看護師、それ以外の医療職・事務職から構成される医療チームです。
作中では様々な思惑によって集団感染は専門外の神奈川DMATがその機動性を理由に最前線のダイヤモンド・プリンセス号に乗船することになった経緯が神奈川DMATの責任者・結城(演:小栗旬)の視点で描かれていました。
時間的制約があるなかで問題解決のために乗り越えなければならない様々な課題を神奈川DMATや厚生労働省から派遣された役人・立松(演:松坂桃李)などの働きによって窮状をなんとか乗り切りますが…それは事態に国レベルでの統制が追い付いておらず、現場レベルでの献身(良心)に依存する状況であったことを示唆していて非常に危ういと感じました。
物語のターニングポイントとして、感染症専門医・六合承太郎(演:吹越満)による船舶内の感染対策の実態を動画で発信する場面が挙げられると思います。結果としてマスコミの格好の餌食となってしまい、拡散する風評被害によって神奈川DMATのスタッフやその家族は差別の標的にされてしまい、参加していたスタッフの一部は撤退せざるをえない状況に陥ってしまいます。
物語では六合をただの悪役のように描いていましたが、それは大きな誤りだと感じます。
確かに六合のスタンドプレーによって神奈川DMATは甚大な悪影響を受けました。動画による告発ではなく、衝突があったとしても神奈川DMATや厚生労働省にその知見を提供すべきだったと思います。ただ、そこには彼なりの職務に対する献身があり、そもそも当初から六合のような感染対策の専門家を適切に起用していればこの衝突は避けることができたとも感じます。
感染対策は専門外だった神奈川DMATの起用も含めて、問題の根幹は国に感染対策の即応チームが存在していなかったことだと思います。そして、問題解決にあたって現場の献身に過度に依存する国の姿勢こそが問題なことをキチンと描写すべきだったと感じました。(話は逸れますが、熊駆除の問題も似たような構図ですね)
