「予想していた程ハードでは無かった」クラッシュ(1996) osmtさんの映画レビュー(感想・評価)
予想していた程ハードでは無かった
かなりハードなシーンが連続するのかと思っていたが、想像していた程では無かった。
官能の極北を描くのであれば、もっとハードコアなセックスが必要だと思う。
車のドライビングとセックス、セックスと死が、イメージとしてリンクするのは共感し易いと思うが、衝突事故のクラッシュともなると一寸ハードルが高くなるので、もう少し丁寧に(映像と台詞の両方で)官能を徐々に炙り出し、その末にハードなクラッシュ体験が情欲をスパークさせてしまう脚本にして欲しかった。
それこそセックスにおける執拗な前戯の如く。
そういった意味では、冒頭のシーン、飛行機の流線形ボディにフェティッシュな欲望を露わにしたり、後半の方の洗車マシーンのシーンも悪くは無いのだが、もっと前半の方で、車のボディ(まだクラッシュする前の!)に対する執拗なフェティッシュなどをエロスたっぷりに表現した方が良かったと思う。
ジェームス・ディーンのポルシェの再現シーンだけでなく、もっと他にも、昔のジャガーやフェラーリなど美しい車を登場させて、より一層フェティッシュをエスカレーションさせて欲しかった。
クローネンバーグは凡庸と思ったのかもしれないが、そういう分かりやすさは、とても重要だと思う。
凡庸と言えば、音楽が如何にも90年代の映画にありがちなスコアで、こういうのは凡庸だと本当に駄目。例えば、60年代のホロヴィッツのカーネギーホールの悪魔的な演奏を唐突にインサートするとか、もっと工夫がないと。
しかし、アメリカ人がフロイト好きなのは前々から分かってはいたが、ここまで極端にリビドーを展開させてしまうと、あまりのバカっぽさに何度も失笑してしまった。
どうせなら、もっとブラックユーモアを炸裂させた方が(特にロザンナ・アークエット登場シーンなどで)面白くなった気もするが、どうにもこうにもピューリタンなお国柄の所為なのか、潔癖というか、真面目というか、ヘヴィなテーマに対するユーモアが足りない気がする。
あとラストは、冒頭の方の流れから行くと、まあ、ああなるしかないのかな。
まだ原作は読んでないが、たぶんラストは違うと思うので、早速読んでみたい。