「50代の男女の静かな恋愛を描いた切ない物語」平場の月 ふじふじさんの映画レビュー(感想・評価)
50代の男女の静かな恋愛を描いた切ない物語
50代になって、それぞれの理由があって独身で地元に戻ってきた中学時代の同級生の男女が、静かに恋に落ちていく物語。
中学時代の初恋の相手同士でありながら、当時は結ばれなかった二人。
互いに結婚や離婚、様々なことを経験してきた上で、50代になったからこその味わい深い恋愛。
あえてこんな書き方をするけど、どこにでも居そうな人達の、どこにでもあり得そうな話で、見過ごされてもおかしくないような市井の話。
だけど、どんな人の人生も、きっと丁寧に描けば映画になるようなストーリーがあるんだろうな、ってことを気付かされた。
とにかく泣いた。何度も泣いてハンカチで目を拭った。
ストーリーはもちろん、キャストの演技がどれも素晴らしかった。
主役の二人は当然のこととして、脇を固めている俳優陣も素晴らしかった。
特に個人的には、ほぼ引退しかけてる居酒屋のマスター役の、塩見三省。
肩を寄せ合って静かに盛り上がる2人を、邪魔にならない程度の良い距離感で見守り、ときおり静かな声でポツリと温かく話しかけるのが心地よくて心に触れた。
セリフは少ないのに、その少ないセリフに感情を乗せる演技はさすがの大ベテランだった。
ハコ(井川遥)が亡くなったことを知ってから、初めて訪れるその居酒屋で、思い出の曲が流れて感情が溢れて咽び泣く青砥(堺雅人)を見て、そっとボリュームを上げてかき消してくれる粋なマスター。そこでまた涙が溢れた。
ここからは、勝手に映画の中の主役二人の心情なんかを推測。
ハコの母親は、小学生の頃に外に男を作って蒸発した。それもあってか、ハコは1人でも生きていけるようにするんだと決意をしている。
悪い意味ではなく、まずは自分。その次に他人。
きっと人を愛するのが苦手、それを言葉にするのはもっと苦手。
愛しても、それを返してくれるとは限らないと分かってるから。
だけど、それをも乗り越えて、自分よりも人を愛することはあるけど、その相手はどこか現実離れをした相手になってしまう。
例えば、DV夫や紐男。
人を愛することが苦手だけど、のめり込むと一筋になってしまう。のかもしれない。
実の妹ですらも、心の中ではどこか信頼しきってしない。
きっと、心の底から本当に信じられるのは自分だけ。
他人が心に踏み込もうとすると、すぐに殻に籠る。自分を守るために、相手を遠ざけようとする。
きっと、その殻を破れるのは自分しかいない。殻を破ろうとしてくる人ではなく、自分が入れ込んでいる人に自分から殻を破ってしまうから、自分の気持ちばかりが歯止めが効かなくなり、良いように利用されてしまうこともあるんだと思う。
青砥はそんなハコにとって、中学時代の初恋の相手でもあり、50代で再開してからも大切な人だった。
だからこそ、つかなくてもいい嘘をついて距離を取った。
知らずに自分が死んで、青砥がどう思うかを考えられない。
考えられていたのかもしれないけど、それでも自分がどうしたいか、がやっぱり1番になっている。
目の前で悲しむ姿を見たくない。それを見て自分も悲しみたくない。だから、嘘をついた。
本当は結婚したかった。でもそんな時にガンの転移が見つかった。その状態でプロポーズを受けても、夫婦で居られるのは僅かな期間になってしまう。
それを知らなかった青砥は、プロポーズを断られた結果、納得はいかないが、渋々別れを受け入れることにする。
青砥は、ハコの目の前に姿を現さないという約束は守るが、やっぱり気になるからLINEで定期的に連絡するけど、全部未読スルー。
ハコが亡くなってから1ヶ月後にようやく人伝で知ることになる。
「死ぬって分かってるなら尚更、最期くらいは心から信じて頼って欲しかった。
でも、ハコの気持ちも分からなくもない。」きっと青砥はそんな悔しさやもどかしさ、怒りなんかぎ混ざり合った複雑な感情だったと思う。
50代の恋。もうこれ以上の恋なんて人生には訪れないと思うけど、残りの人生を、この最後の恋を大切に胸の中に閉まって青砥は生きていくんだろうと思った。
配信が開始したら、家で一人で観ながら心置きなく号泣したい。
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。
