「つつましくリアル」平場の月 cinemackさんの映画レビュー(感想・評価)
つつましくリアル
こういう映画、ありそうでなかったと思う。
独り身の50近い男女のつつましいリアル。
一人暮らしの部屋、仕事、通勤やふだん着る服、食べもの、居酒屋、交わされる会話・・・みなつつましく、何も特別なものはない。ユニクロやニトリもお互いに〝ふつう〟で、もはや虚栄心で自分を飾ったりいつわることもない。それがいい。
主役二人のまとっている空気のおだやかさにも好感。
ある程度長く生きて、それまで背負っていたいろんな荷物をおろし、素に近い姿で二人はいる。もう自分は無理せずに生きていくんだというユルい決意。・・それが中学時代の初恋の相手との出会いで、少しずつ変化していく。
窓辺で月を見ていた女に男が聞く。「あのときなに考えてたの?」
女は言う。「夢みたいなことだよ」
そうなのだ。50、60になっても〝夢みたいなこと〟は考える。
でも、そんなこと何も実現しないのは自分がよく知っているのだ。そういう世代の、〝もういちど恋愛するつつましい物語〟ーーがこの映画だ。
ぼんやり予想はしていたけれど、切ないです。たまらず泣きます、これは。
離婚して地元に戻った青砥(堺雅人)と、夫と死別し、病院の売店でパート勤務する須藤(井川遥)。この主演二人はとてもいい。台詞はずっと静かだし、はしゃぐこともわめくこともない。唯一、自転車二人乗りの場面たけ弾けるが。二人のキャリア・ベストの作品になるのでは、と思う。
中学時代の場面の演出はややキレが欠けるものの、カレンダーがめくられ、ちょうど12月から映画が始まることや、映画の舞台が私の地元のほぼ隣町で、見覚えある場所も出てきてなおさらリアルで……切なさが増した。50代以上の方に、とくにおすすめです。
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