「タイトルなし(ネタバレ)」平場の月 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルなし(ネタバレ)
離婚後、地元の朝霞に戻り、印刷工場で働く50代の青砥(堺雅人)。
施設に入居させた母に月一回は面会に行くが、認知症が進行した母は都度「息子は死にました」と言う。
そんなある日、胃の具合がよろしくなく、内視鏡検査を受けた帰り、病院の売店で中学生時代の同級生・須藤(井川遥)と再会する。
互いに独り身。
互助会的な感じで旧交を温めることになったふたり・・・
といったところからはじまる物語。
中年の恋愛を描いた・・・というだけで、少々こっぱずかしいところ。
だが、「リリカル」な映画だった。
大林宣彦の尾道三部作の主人公たちが中年になったと言うか。
「まっすぐ」とも言える。
ふたりのあいだには、「かくしごと」はあるが、「嘘」はない。
50年も生きてきたのだから、隠したいことなど、山ほどあるはず。
その多くを、ふたりは本音としてさらけ出す。
たったひとつのことを除いて・・・
最後に描かれる青砥の号泣。
フェリーニ『道』のザンパノの慟哭が脳裏を過った。
薬師丸ひろ子が歌う「愛って よくわからないけど 傷つく感じが・・・」の歌詞が沁みる。
50年生きて来ても、知らないこと、わからないことは多い。
途中、驚くショット繋ぎがあった。
思わず、息をのんだ。
感嘆したそれは、
中学生時代の青砥が須藤の家庭内いざこざを目撃し、逃げる須藤を青砥が追うシーン。
中学生時代のふたりは、現在須藤が暮らすアパート傍の橋を駆け抜ける遠景。
橋の中程に青色の人影が写っている。
切り返しのバストアップショットで青色のコートを着た須藤が写される。
中学生時代の青色の人影=現在の須藤、という文法。
さりげないショットの繋ぎなのだが、こういうあたりにリリシズムを感じる。
物語を超えた詩情のような映画の文体。
付け加えると、塩見三省演じる焼き鳥屋の親父の、ほとんど動かず無口な姿は、『さびしんぼう』の主人公の父僧を思い出しました。
評価は、★★★★★(5つ)としておきます。
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