劇場公開日 2025年11月14日

「あの二本指はVサインじゃなかった」平場の月 あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 あの二本指はVサインじゃなかった

2025年11月19日
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鑑賞方法:映画館

まず「平場」の解釈から。この作品(原作小説、映画)の舞台は埼玉県の朝霞、新座、志木あたりのようだが、同じ中学校に通い、そのへんで就職したり結婚して住みついている者たち、もしくは青砥や須藤のように事情があって舞い戻ってきた者たちのコミュニティをイメージする。まあ「地元」と同義なのだが大学生が出身地をそう呼称しているのではなく、50歳過ぎのオッサンやおばちゃんの群れだからそれなりに業が深い。
もともと平場というのは百貨店の定番売り場をそう呼んだ。ブランド売り場でもなく特売コーナーでもなく普通のハンドバックや財布やハンカチが並んでいる。だからまだ何者でもない中学生に値札をつけて並べている感じであり、青砥と須藤がお互いを苗字で呼び合うところは、それぞれがいわば商品だった頃を引きずっているわけで痛々しさを感じてしまう。平場からみた月は近くにあって手に届きそうに見える。中学生の青砥にとっての月は「普通に生きたくない」ことだったし、須藤のそれは「一人で生きていく」ことだった。二人ともそのことは果たせず、再び平場で出会うことになる。
追いかける男と、逃げ腰の女。離婚にアル中とまあ想定内の挫折者である男に比べ、女は略奪婚と夫の死、年下の男に全財産を貢ぐなど壮絶な過去を持つ。思うに彼女はリミッターが外れたときの自分の怖さをよく知っており愛情や親切を素直に受け入れられなくなっているのだろう。原作小説は各章のタイトルが須藤の発した言葉で成り立っている。「夢みたいなことをね。ちょっと」「痛恨だなぁ」「それ言っちゃあかんやつ」「合わせる顔がないんだよ」など。一つ一つが須藤の揺れ動くこころと願いの切実さを伝えていて実に哀切である。
映画は、この原作の雰囲気を全く損なうことなく、上手に取捨選択して構成されている。(先の須藤のセリフはもちろん全部取り込まれてる)ただ手術後の須藤の苦労、ストーマについてももちろんだし、収入のない彼女が生活保護を受けるかどうか迷った末青砥の家に一時は同居するところなどもカットされたのでそれでも青砥との縁を切ろうとする彼女の決断の重さが表現できていないかもしれない。
一方で青砥と須藤以外の登場人物はかなり薄く描かれている。大森南朋や中村ゆりなど手練れの役者を揃えているが彼や彼女の描写に踏み込まず点描として扱うことにより青砥と須藤の二人を浮かびあがらせている。安藤玉恵演じるところのウミちゃんだけは役柄上、あざとい演技をさせているが。ちなみに映画では彼女に「海野」という苗字を与えたが、原作ではウミウシ似なのでウミちゃんということになっている。それでは引き受ける女優さんがいなかったかもしれないね。
本レビューのタイトルの二本指だが、須藤がオムライスを作っているとき青砥に向けて示すもの。真意は映画では説明されないが重要なポイントです。ちゃんと知りたい人は原作読んでね。

あんちゃん
YOUさんのコメント
2025年11月23日

歪みVでしたね。

YOU
アベちゃんさんのコメント
2025年11月22日

コメントありがとうございます。
あんちゃんさんのレビュー、考察が鋭いですね、。
私は映画観て、原作を読むってことが本作品で経験でき
とても良かったと思っています〜

アベちゃん
Mr.C.B.2さんのコメント
2025年11月20日

コメントどうもです。
映画ではLINE未読くらいしか描かれていないので、そう思ってしまいました。

Mr.C.B.2
SAKURAIさんのコメント
2025年11月19日

こんばんは!

こちらこそありがとうございます。
私あまり原作小説とか興味ないんですが買おうか悩んでます(笑)

そのくらい良かったです。
今週新作少ないからまた行こうかな(笑)

SAKURAI
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