劇場公開日 2025年11月14日

「ラストの堺雅人に心を持っていかれた。『平場の月』圧巻。」平場の月 leoさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 ラストの堺雅人に心を持っていかれた。『平場の月』圧巻。

2025年11月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

悲しい

本作は、50代前半のバツイチ男女の恋愛を描いた静かなドラマ。
印刷会社で働く青砥を堺雅人、病院の売店でパートをする須藤を井川遥が演じ、彼らの周囲にいる人物たちも、どこか身近に感じられるような描写で丁寧に作り込まれている。

須藤の住む昭和の雰囲気漂う木造アパート、青砥の一戸建て、2人が訪れる商店街の焼鳥屋など、舞台設定は「ごく普通の日常」をリアルに切り取ったもの。
登場人物たちも魅力的で、須藤の同僚・海ちゃん(安藤玉惠)は噂好きで「人の不幸は蜜の味」タイプの典型的なキャラとして存在感を放つ。
焼鳥屋の寡黙だが心遣いの深い大将を演じる塩見三省、中学時代の同級生役の大森南朋・宇野祥平、印刷会社の年配の同僚を演じるでんでんなど、脇役も多いが、その一人ひとりがしっかりと輪郭をもって心に残る。土井監督の演出力の高さを改めて感じた。

土井監督は「いま、会いにゆきます」「花束みたいな恋をした」「片思い世界」などでも、“幸せな時間の喪失”“大切な人は永遠ではない”といったテーマを繰り返し描いている。本作もその流れを継いでおり、ある程度ストーリーの方向性が読めてしまったのはやや残念だった。

物語は終始静かに、淡々と進む。
偶然の再会から始まり、2人の穏やかで幸せな時間。
その中で、青砥が須藤にプレゼントを贈ろうとアクセサリー売り場を訪れるシーンがある。高価な品に思わず「高っ!」と驚き、青砥が選んだのは〈月のシルエットにダイヤがきらめくミニマルで洗練されたネックレス〉。
その後に指輪まで買おうとする青砥に、須藤が優しく言う。
「これがいいんだよ。これ一つがいいんだよ」
50代という人生経験を重ねた2人が、どこか10代の恋の延長のように心を通わせていく姿が微笑ましい。

そして、須藤のがんが発覚してからも、物語は派手に煽ることなく静かに進んでいく。感情がじわりと滲み出るような作りだ。
そして迎えるラスト(ネタバレなので言えない)――詳細は伏せるが、堺雅人の渾身の演技が一気に炸裂し、胸に迫る場面だった。こういうのも土井監督の特徴。
鑑賞後は、日々の中にある小さな「良いこと」も「悪いこと」も、すべてが少し愛おしく思える作品だった。

物語の展開がある程度予測できてしまう点は惜しかった。
しかし、多くの人物が登場しながらもキャスティングと俳優陣の演技力によって、一人ひとりの個性がしっかり際立ち、物語に厚みを与えていた。また、舞台設定が「地元感」に満ちており、日常に寄り添うようなリアリティを生み出しているので、多くの人々が共感できる作品だと感じる。
鑑賞後には、日々を丁寧に生きたくなるような、静かで温かい余韻が残る映画だった。
以上

leo
シニア割引きさんのコメント
2025年11月18日

地元民です。ロケ地を知っているだけにリアル感がハンパないです。須藤が亡くなったことが受け入れられない状態で焼き鳥屋のいつもふたりで座る場所に彼女がいないことで初めて死を実感して号泣するシーンはあまりにも切ないです。

シニア割引き
PR U-NEXTなら
映画チケットがいつでも1,500円!

詳細は遷移先をご確認ください。