「ありきたりのことをして来れなかった大人たちによる、人生最後の煌めきの物語でしたね」平場の月 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
ありきたりのことをして来れなかった大人たちによる、人生最後の煌めきの物語でしたね
2025.11.14 イオンシネマ久御山
2025年の日本映画(118分、 G)
原作は朝倉かすみの同名小説
30年ぶりに中学時代の想い人に再会した中年を描いた恋愛映画
監督は坂本裕康
脚本は向井康介
物語の舞台は、日本のどこかの街(ロケ地は埼玉県朝霞市)
印刷工場で働く青砥健将(堺雅人、中学時代:坂元愛登)は、先輩社員のヤッソ(でんでん)、後輩のリリー(柳俊太郎)らに囲まれながら、中学時代の同級生・安西(椿鬼奴)たちと一緒に働いていた
彼には元妻・みづき(吉瀬美智子)との間に成人した息子・健介(倉悠貴)がいて、彼はいまだにフラフラして母親をイラつかせていた
ある日のこと、健康診断にて指摘を受けて病院を受診した青砥は、その病院の売店にて、中学時代の想い人・葉子(井川遥、中学時代:一色香澄)と再会することになった
そこには同じ中学時代のクラスメイト・海野(安藤玉恵、中学時代:古川凛)もいて、少しばかり懐かしい気持ちになった
さらに幼馴染の江口(大森南朋、中学時代:坂口琥之佑)の娘(芹澤雛梨)の結婚式にて、森(宇野祥平、中学時代:斉藤汰鷹)、後藤(吉岡陸雄、中学時代:松藤史恩)とも再会し、昔話に花を咲かせることになった
江口はかつて葉子に告白し、秒殺された経験があり、青砥も同じく玉砕していた
だが、当時の葉子は恋愛どころの騒ぎではなく、荒れた家庭環境の中でどうやって生きていくかを模索していた
彼女は「誰ともそんな関係にならない」というものの、その後の人生では金持ちと結婚したり、美容師の鎌田(成田凌)に貢いだりして、波乱の生活を送ってきていたのである
物語は、中学時代の忘れ物を取りに戻るような感覚で人生を過ごす青砥と葉子が描かれていて、ある程度人生の先が見えている大人が描かれていた
病気と死が身近になり、自分にも順番が回ってきたかと冷静に思える年頃となっていて、そんな中でも人は恋愛感情を有して、劇情に走ることもある
そう言ったリアルが描かれていて、かなり年齢層が高めの設定になっている
若者から見れば「気持ち悪い親世代の恋愛」となっていて、さらに過激なシーンもあったりするので結構キツいようにも思える
それでも、この映画は記憶の片隅に残って、30年後ぐらいに良さがわかるのかもしれない
物語は、ある程度の年齢に達しているので「体のどこかに不調が出てくる世代」となっていて、同世代の死に直面している人もいれば、親世代を看取った経験がある人もいる世代となっている
葉子は配偶者を亡くし、青砥は両親を亡くしているのだが、そう言ったことも普通に起こっていくし、いずれは自分の番が来ることもわかっている
同世代には子どもを送り出している人もいるし、第二の人生がスタートし始めていて、そんな時に「新しいこと」を始める人もいれば、「やり残したこと」を再開する人もいる
青春時代にしかできなかったことを後悔することもあり、当時は恥ずかしかったり、同調的で嫌悪があったものも「やっておけばよかったな」と思えてきたりするものだったりする
そんな中で、不意に起こった初恋の人との再会に青砥が色めき立つのは自然なことなのだろう
ぶっちゃけると青春時代の面影を残していたり、理想的な成長を遂げている人の方が稀で、夢が壊れることの方が多いように思える
そんな中で、初恋の人が想像を越える大人になっていたらというのはファンタジーかもしれない
人がどのような成長を遂げて大人になっていくのかはわからないが、親としての役割を終えた世代に起こることというのは案外ピュアで見ていられないものなのは普通のことだったりするのだろう
いずれにせよ、本作では初恋の人の終末に寄り添うという流れで進むものの、ラストには悲しいサプライズが待っている
ある意味、理想的な恋愛の終わりなどではなく、後悔だけが募る内容となっている
だが、決めて生きるということを念頭に置いた人生を過ごしてきた二人なので、葉子の選択も彼女らしいし、青砥の行動もらしさが滲み出ている
だからこそ、ああいう終わり方になるのだと思うのだが、あまりにもリアルテイストなので、距離感を感じてしまう人が多いのは仕方ないのかな、と思った
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