劇場公開日 2025年3月22日

「神の代理人まで味方につける ナチュラル•ボーン人たらしジェレミーの表情も行動もまったく読めない」ミゼリコルディア Freddie3vさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0神の代理人まで味方につける ナチュラル•ボーン人たらしジェレミーの表情も行動もまったく読めない

2025年5月7日
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鑑賞方法:映画館

物語は秋の田舎道を走る自動車のシーンから始まります。やがて、画面はその車を運転する主人公ジェレミーの視線にかわります。田舎道はくねくねと曲がりながら石造りの家が立ち並ぶ村へと導きます。ジェレミーは村のパン屋の前で車を停めます。彼はかつて世話になった(あるいはゲイの恋愛関係にあった?)パン屋の店主の葬式のために何年ぶりかにこの村に帰ってきたのでした。

この主人公のパン職人のジェレミーというのが一見普通の人のように見えて常識では計測不能の変な人なんです。まあ村の人たちも大なり、小なり、みんな変なんですけどね。店長の未亡人も、店長の息子のヴァンサンも、ジェレミーの旧友のワルターも、そして村の教会の神父も。ついでに村の警察も。ジェレミーの何が変かというと、合理的な判断に基づいて行動しているわけではなく、常に本能というか、持って生まれた本質、性質からくる直感みたいなものに従って行動してるからだと思います。旧友のワルターの家を訪ねたジェレミーはワルターの下着に着替えてワルターの胸をまさぐり始めます。ゲイではないワルターは怒り心頭で銃まで持ち出して彼を叩き出すのですが、ジェレミーにしてみれば、相手がゲイだろうが、なかろうが関係ない、ただ本能に従って愛の行為をしたかっただけだということなんでしょう。

そして、その本能に従ったある行動でジェレミーは大きなあやまちを犯して大ピンチとなるのですが、天性の人たらしぶりを発揮します。不思議と周囲が彼を救ってくれるんですね。人たらしというのは自分が人をたらし込んでるのに自覚的な人が多いと思うのですが、彼の場合は無自覚でも本能からの言動が結果的に人を惹きつけて助けてもらえます…… と、ここまで書いて、実は彼は戦略的にそうしてるのではないかとも思えてきたりもしますが、彼の表情からは何も読み取れません。人間の摩訶不思議さを体現しているような感じです。そしてまあ、いろいろあって最後のシーンに着地するのですが、なるほどそう来たかと納得できるような、できないような不思議な幕引きがされます(褒めてます)。

今回の特集の3作のうちでは、この作品が割とプロットがしっかりしていていちばん完成度が高いのではないかと感じました。あと役者さんたちの佇まいが主人公を始めとして皆、人間の摩訶不思議さを体現しているような感じで、とても良かったです。

Freddie3v