「この路線で行くのか」28年後... Minaさんの映画レビュー(感想・評価)
この路線で行くのか
走るゾンビという歴史を変える改変をした作品にも関わらず、そのゾンビを背景として人間の本質を描いた問題作、「28日後…」。
感染拡大後、復興を目指す英国に再び地獄の悪魔がやって来るサバイバルスリラーの「28週後…」。第1作と2作ではまるで風貌の違うシリーズだが、2作目は興行的に下落気味だった影響で「28月後…」が幻の脚本となってしまったという事は有名な話だろうか。
そして満を持してダニー・ボイルが自らメガホンを取った最新作、これは観るしかないだろう。コロナ経験後、レイジウイルスの本件も絵空事ではなくなったが、その背景を踏まえ、ダニー・ボイルはどう描くのかと気になっていた。
それが、意外にも王道な路線であり、一見肩透かしに思えるも、そこからダニー・ボイルらしさ全開の作風に仕上がっており、彼のファンは歓喜する様な作品になっていた。「クレイヴン:ザ・ハンター」が失速に終わったアーロン=テイラー・ジョンソンが主演の様に扱われているが、本作ではかなり端役な印象だ。恐らくシリーズ3部作構成とされる本作において、これから活躍する立場なのだろう。本作でスポットライトが当たるのは、その弟である。感染者が蔓延る本土から少し離れた離島で穏やかに暮らす一方、イギリスには出ることも入ることも出来ない国ごと隔離された状態の暮らしであり、そのギャップにぶるっとするが、その安全とされる離島では、ある程度の年齢になると本土にゾンビ狩りに行く風習がある様で(劇中では深く語られないが、主食となる野生動物を狩りするために本土に行く必要があり、その為の訓練、度胸試し的立場なのかも知れない)いよいよ初めて本土に行く形になる所から幕が上がるのだが、そこで行った本土でトラブルに見舞われ、その最中に見つけたある事実から、病気の母を連れて単身で本土上陸を試みてしまうのだ。そのある事実というのが予告編でも登場した頭蓋骨を山積みしたあのオブジェと、一見血を塗りたぐった様にも見えたレイフ・ファインズである。
本作でもやはり感染者は背景に留まるのだが、アルファと呼ばれるレイジウイルスの変異で身体能力が上がった超人類の様なモンスターがおり、アルファ率いる感染者集団がメインで襲ってくる為、きちんとモンスターとして印象強く出て来ているが、ひたすらレイジ(凶暴性)を露わにし、何を考えているのかも分からない血だらけの感染者とはタイプが異なる為、近付きたくないゾンビ特有の怖さが無く、人間をどう欺いてくるのかというそちらの怖さが押し出された印象である。ディストピア的世界観でサバイバルするホラーに見える様な予告だったが、一筋縄ではいかせないのはダニー・ボイル監督×アレックス・ガーランド脚本の最強タッグのせいだろう。 キャラクターも個性的な人物が多く、特に最後に絡む連中は恐らく今後のシリーズに影響するだろうが、終末世界とは思えない豪華な格好であり、(何故か全員派手なジャージ)愉快にゾンビの首をギコギコ切り刻む姿には感服させられた。良い意味でも悪い意味でも予想を裏切る形で世に放たれた本作だが、恐らくこれからが本番なのだろう。興行的には続編製作には問題なさそうだが、これで終わってしまったら非常に残念でしかない。