劇場公開日 2025年6月20日

「単なるゾンビホラーを超え、歴史と状況を俯瞰するかのような語り口が突き刺さる」28年後... 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 単なるゾンビホラーを超え、歴史と状況を俯瞰するかのような語り口が突き刺さる

2025年6月24日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

序盤から懐かしいほどのボイル節が全開。緩急に振り切れた映像にゾッとするホラー描写を載せ、リズミカルかつ叙情的な音楽が感情を掻き立てる。と同時に、本作といい「T2」といい、近年のボイル作はこれまで以上に縦軸と横軸が強化されているように思う。つまり歴史と状況。特に本作では、ゾンビ物を切り口として、自国の文化、価値観、現代史を俯瞰し、ユニークな創造性のうちに遊ぶ。併せて本作は「シビル・ウォー」のガーランドがイギリスに目を向け、彼ならではの特異な実験劇場を展開させた作品とも言い得る。恐らく両者には、内に籠もって過去の栄光と伝統を愛でるか、それとも危険を顧みず未知なる外の世界へと飛び出していくかという二つの未来を対比させる狙いがあるのだろう。それらが衝撃的な疾走感とホラー描写、人間模様、さらには生死の深淵を覗くような畏れを加味して描かれゆく様は、通過儀礼的であり、コンラッドの「闇の奥」的でさえある。

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牛津厚信
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