「潜水艦戦の知的興奮はどこへ消えたのか」沈黙の艦隊 北極海大海戦 こひくきさんの映画レビュー(感想・評価)
潜水艦戦の知的興奮はどこへ消えたのか
副題に「北極海大海戦」と掲げながら、肝心の北極海戦は駆け足で片付け、結局ニューヨーク沖の艦隊戦で派手に幕を閉じる。この構成自体がまずチグハグ。観客が期待するのは氷海を舞台にした潜水艦同士の知略戦であって、水上をクジラのように飛ぶアトラクションではない。
映像の出来は確かに邦画としては水準を超えている。氷山ギリギリの操艦、流氷に紛れるサスペンスは目を引いた。しかし、原作が魅せた「戦術理論の積み重ね」がほぼ欠落している。音紋解析、水温躍層、魚雷の誘導特性、安全距離の計算といった理屈を積み上げてこそ、海江田艦長の天才性と潜水艦戦の面白さが立ち上がる。それが抜け落ちた結果、ただ「主人公だから魚雷が当たらない」ようにしか見えない。軍事シミュレーション的な知的スリルを削り、派手な見せ場でごまかした印象は否めない。
さらに致命的なのは、副題と本編の乖離。北極海戦をクライマックスに据えるどころか通過点にし、ニューヨーク沖の第2艦隊戦を本丸のように描いた時点で、作品の一貫性は崩れている。原作が北極海戦から国連総会に至るまでを理屈と政治で完結させたのに比べ、映画は思想的決着を放棄し、アクティブソナーで擬似撃沈という派手な映像で強引に終わらせただけ。
総じて言えば、この映画は「沈黙の艦隊」という看板を掲げつつ、原作の核である戦術理論と思想性をかなぐり捨てた別物であると感じた。映像は派手だが中身は空洞。原作ファンにとっては物足りず、未読者には中途半端に映る。これでは「沈黙の艦隊」の名を冠する意味が薄れてしまったのではないだろうか。
共感ありがとうございます。
原作にもクジラの様に跳ねるシーンあるんですかね。
原作では、他国原潜との会議、艦隊行動、国連決議と進むのは知っていますが、なんか次作で幕引きの様な雰囲気もありますね。


