「「命こそ宝(ぬちどぅたから)」」木の上の軍隊 オパーリンブルーさんの映画レビュー(感想・評価)
「命こそ宝(ぬちどぅたから)」
沖縄本島、美ら海水族館がある辺りから西側に伊江島がある。島の中心に城山(タッチュー)という高い岩の山があるのみで(ここからの見晴らしが最高!)、あとは穏やかな平地が続く小さな島
1945年4月16日、米軍は沖縄本島攻略の足掛かりにするため、伊江島に侵攻
物語の冒頭は伊江島を沖縄を護るための飛行場造成に駆り出される、島民たちと日本将兵たちの心理的衝突が描かれる。安慶名セイジュン(山田裕貴)と、与那嶺幸一(津波竜斗)は、身近に迫る米軍の恐ろしさも知らず、キツイ労役の合間にぼやきつつも、青年らしいささやかな楽しみを見つけて、日々を生きている
山下少尉(堤真一)は戦闘に陥ったら島民を逃す方法を上官に相談するも、上官は島民を捨て石としか捉えていないことに絶句するが、上官自身も捨て石になる覚悟をしていることに気づく
冒頭30分以上(もしかしたら40分?)、過酷な労役〜突然の米軍侵攻〜民間人も巻き込む悲惨な戦闘シーン〜二人がガジュマルの木の上に逃げ込むまでを描き、初めて「木の上の軍隊」というタイトル出ます
戦闘シーンが短いというレビューもありましたが、私としてはきちんと描いているなと思いました。壕に逃げようとする民間人を、ここは日本軍のいる所だからと素気なく断る兵隊、民間人も軍人も構わず撃たれる戦闘。今冬に人気コミック「ペリリュー〜楽園のゲルニカ〜」の映画が公開されるそうですが、それに連なるであろう戦闘の泥臭さ、命のはかなさが描かれていました
子どもの頃、戦時中を描くドラマ等を見ていると、母が「こんなにきれいな軍服など見なかった、みんな泥まみれで垢がこびりついた、ボロボロの服着てた」とよくケチをつけてましたが、この映画ではそばに寄ると臭ってきそうなクタクタな服をセイジュンや幸一が着ていて、雰囲気がよく出ていた。島民の女の子も沖縄の衣服を適度に緩く着ていて、髪形や、沖縄の家も寄せていて、昔ののどかな沖縄の生活をよく表していたように思う
木の上に2年間近く潜んでいた…という流れについては、何故もっと早くに降りてこなかったのか?という疑問はスッキリしたりはしない。横井庄一軍曹、小野田寛郎少尉らも何と30年近くジャンクルに潜んでいた訳で、本人の手記やドキュメンタリーを読んで、本人達の心持ちがわかるのかと言われたら、現代の史実を知っている者には理解できない
圧倒的な米軍の侵攻の中、二人が必死に生き抜こうとしたこと
(※島民1,500人、軍人2,000人が死亡)
日本軍が救援に来たら、反攻に転じると信じたこと
たった二人の間にも、上官と、島民の軍隊の下働きという上下があったこと
史実では二人の年齢が逆だったことを、映画鑑賞前の新聞記事で知っていた
(具体的な年齢は少尉が28歳、島民が36歳)
この年齢差だったら、また物語は異なったことだろうとも思える
土地の恵みや水の在処、危険な生物(ハブの見分け方)等、セイジュンの島民ならではの知識が二人を生かしたのだろう
二人が隠れたガジュマルは、「ニーバンガズィマール(命を救った神木)」と呼ばれ、後に台風で倒れたりしたけれど、土を入れ替えて、まだ力強く生きている
「命こそ宝(ぬちどぅたから)」
沖縄の命の輝きが映画ラストにきらめいていた
入国ともども共感ありがとうございます。
『沖縄の集団自決は軍部の強制ではなかった』が徹底検証され、話題となって20年経ちますが、教科書や世間の認識は変わりませんね……