「「帝国軍人」という名の戦争の被害者」木の上の軍隊 トンまるさんの映画レビュー(感想・評価)
「帝国軍人」という名の戦争の被害者
最初に評価を3にしたのは、令和のコンプラか、はたまた広い年代で観れるようにとの配慮からなのか、いわゆるリアルさというか「生臭さ」がなく、マイルドな仕様になっていることからの採点であって、決して内容が悪いわけでも、劇場でお金を払って見るほどでもないというわけではありません。
実際、私は映画館で見に行ってよかったと思いました。
8月は戦争映画を見にいくと決めてました。
そんな時に公開していた戦争映画がこちらで、予告編を見た程度の軽い知識で足を運びました。
私が観に行った映画館では、上映時間が一日一度だけだったので、そんなに人いないだろうなぁ…と思ってたのですが、ポップコーン抱えてスクリーンへ行くと6~70代ほどのシニアのお客さんですし詰め状態だったので、あんまり上げてなかった期待値がこの段階でぐっと上がりました、8月だからみんな思うところは同じなんだなぁと。
堤真一演じる宮崎出身の上官が、絵に描いたような凝り固まった日本の軍人であることが冒頭のほんの少しの映像だけで分かるんです。
お国のために命を捧げ、非国民など言語道断、恥をさらすなら死を選べ、決死の覚悟で米兵を殺せ、米兵は10人殺して1人前だ!!
そんな帝国軍人山下と、地元民でもある若い新兵が共に木の上で2年過ごすという内容。
ガジュマルの木の上に逃れるまで、味方も島の住民も、いきなり殺されるんですよ。
そしてどこか呑気な若い新兵セイジュンも、木の上に行くまでに米兵を一人射殺してしまうんです。
終戦に気づかないまま2年を過ごすってことで、映画を見るまではもっと平和な内容だと思ってたんですよ。だって、木の上に登って間もなく戦争は終わったって内容なんですから。
ところが、直前まで狙い撃ちにされ、数秒前にいた場所は爆撃され、おまけに殺しも経験して、取り返しのつかない状況下での敗戦による終戦。
終戦に気づかず米兵を終始警戒する2人なんだけど、終わってるのに終わらせられないという悲しさというかやるせなさを感じてしまいます。
米兵のアジトで缶に入ったパスタを夢中になって頬張る山下の場面は一番印象に残りました。
敵兵の缶詰を腹に入れるくらいなら飢え死にのほうがマシだ!!と一喝し、味方の缶詰だと嘘をつかれ米兵の缶詰を食べたことに気づいた時はショックに身体を震わせながら、騙したセイジュンを射殺しようとまでした山下がいざ敵兵のアジトへ行ってどうなったかと思いきや、パスタがっついてニンマリしてるんです。
ああ…お国のために戦う軍人さんも、戦争がなければ元々は普通のおじさんなんだよなと改めて思う場面。
戦争の犠牲者はこういうところにもいるんだよなぁと考えさせられました。
思い出のあった丘は、はじめて敵兵を殺した場所に塗り替えられ、海は艦隊で黒く覆われ、島のあちこちは爆撃で荒れ果て、以前はどういう風景だったかも思い出すことはできない。
セイジュンが涙ながらに「帰りたい」と叫ぶ場面。母親や友達と過ごし、海に行って釣りをする平凡だけど最高だった日常。銃を向ける山下もその言葉に戦争前の幼い時代の故郷の息子が重なり、帰るべき日常がよぎり戸惑う。
最後の最後、帝国軍人であった山下の「そろそろ帰ろう」という言葉で幕を閉じます。
帰るのは故郷であり、かけがえのないものであった日常の世界。
ほぼほぼ満席だった劇場内は最後までとても静かでした。
みんな、ただただ真剣に見てて、私もその一人でした。
2時間と少しの上映時間でしたが、本当にあっという間でした。
名作とか、劇場で観たほうがよいとか、そういうことではないのですが、見終わって思ったことは一つ。
私はこの日この映画を映画館で見に行って良かったです。