「「帰りたい」のセリフに泣く」木の上の軍隊 Yokoさんの映画レビュー(感想・評価)
「帰りたい」のセリフに泣く
戦後80年の今年、米軍の本土上陸を阻止するために犠牲となった沖縄で実施にあった話を描く作品を制作されたことに心からの敬意を表します。
井上ひさしの劇団「こまつ座」の演目として認識していた本作を
沖縄生まれの若い監督さんが実写映画化するということで、注目していました。
クレジットを見ると、「こまつ座」および舞台の『木の上の軍隊』を演出した栗山和也氏が全面協力しておられることからも、原案の魂がしっかりと入った作品なのだろうと確信しておりました。
映画、とても良かったです。素晴らしかった。
舞台では、二人の兵士が2年間過ごしたガジュマルの木の上での会話劇で構成されたのでしょうが、映画では沖縄の海の映像や、回想シーンでの「戦争がなかったらこうであっただろう」平和な日常の描写が差し込まれることで、より戦争の非道さ残酷さが観るものに迫ってきました。
安慶名セイジュンを演じた山田裕貴さん。メイキング映像では「虫が大嫌い」と明かしておられたようなシティーボーイなのに、あの過酷なシーンの連続によく耐えられました。役者さんってすごい。
釣りが好きで、子どもが好きで、病気のお母さんを見捨てられない優しい人で、
こんな時代でなければ貧しいながら良い友人たちと楽しく暮らしていただろう島の好青年が
なぜか巻き込まれてしまった戦争の中を生き抜く地獄のような日々を演じきっておられたと思います。名優堤真一を相手に、真向勝負のお芝居対決でしたね。
大切な人たちも何もかも失ってしまった絶望の中でも、なお「帰りたい」と号泣する姿に、井上ひさしが書き残しておきたいと思ったという「希望」を感じました。人は悲しいほどに愚かで弱いけれど、生きることを諦めない限り前に進むことができる。そんな贈り物をもらったような映画でした。
私たちにとっては80年前の出来事ですが、世界には今この時にも戦争によって故郷を追われ、家族を亡くし「帰りたい」と叫んでいる人たちがいることを忘れないでいたいと思います。