「異常なくらい傑作が多い今年の邦画でまた素晴らしい一品」木の上の軍隊 LukeRacewalkerさんの映画レビュー(感想・評価)
異常なくらい傑作が多い今年の邦画でまた素晴らしい一品
実話を元にした物語。小野田少尉か横井さんか。こう言ってピンと来る人は同年代。
そういうサバイバル・ドラマは昔すでに作られたと思うし、TVでいわゆる再現ビデオ風のをいくつも観ているので新味がないかも、と感じていたが、かつて井上ひさし原案で舞台化されていた、加えてこの2人の名優が演じる、となれば観ないわけにはいかない。
そして、出来は期待以上だった。
一般に「2人だけのチームは良くない」と言われる。反目し始めたら収拾がつかないからだ。
しかし、どうしようもなく2人で居ざるを得ない、逃げ出せない極限状態で、人間はどうやって折り合っていくのか。
飢えているのに、敵の捨てた残飯なんか食えるか、と日に日に衰弱していく山下少尉(演: 堤真一)。
お願いですから食べてくださいと懇願する新兵の安慶名(演: 山田裕貴)。
そして安慶名は一計を案じて山下を救う。
しかしこのようなシーンによって時系列で単純に和解が進むわけではない。全編を通じて、2人の権力勾配は微妙に崩壊し逆転し、そしてまた復活する。
徹頭徹尾、山下は上官らしく居丈高だ。そこに地元出身の安慶名の、独特のおおらかさがまったく噛み合わない。
上官の概念的で狂信的な「撃ちてし已まん」「生きて虜囚の辱めを受けず」の軍国世界観と、新兵の地に足を付けた「ねぇ、生きましょうよ」「帰りたいです」という切望が鋭く対比される。
そう、まさに安慶名は木の上ではなく、大地に足を付けたかったのだ。
こうして反目と協力、いがみ合いと慈しみ合いが何度も交錯する。
この一筋縄ではいかない揺り戻しに観客は振り回され、結末を最後まで予想できない。
堤真一は、この人しかこの役はやれんだろう、と思うほど適役。
山田裕貴の演技はもう何も言うことない。ただただ、揺さぶられる。いい役者だなぁ、本当に。
敗戦80年の今年、これ、絶対にオススメです。