「面白いと思わせておいてクソ映画にもならなかった」近畿地方のある場所について 🐙たこ🐙さんの映画レビュー(感想・評価)
面白いと思わせておいてクソ映画にもならなかった
前半は、「場所」を中心に据えた長編ホラーとして、構成・人物配置・情報の出し方・恐怖の質がきちんとかみ合っており、強い期待を抱かせる立ち上がりだった。
だからこそ、後半で物語の軸や世界観のルールが次々と切り替わり、恐怖が積み上がらず「寄せ集め」に分解されてしまったことが、強い落差として印象に残る。
前半が本気で良かったからこそ、
後半の安直さや雑さがより目立ってしまった――
そんな作品だったと思う。
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よかったところ(前半)
1.構成・物語の軸について
・「場所」そのものを恐怖の中心に据えた構成が一貫していた
前半は、特定の人物の感情や過去ではなく、「近畿地方のある場所」が何なのか分からないこと自体を恐怖の核に据えており、物語の関心がぶれずに保たれていた。
・断片的な情報が積み上がり、回収を期待させる構造になっていた
出来事や証言が少しずつ提示されるだけで明確な説明はなかったが、それぞれがどこかでつながっていそうな気配を持っており、「これはどう回収されるのだろう」という期待が自然に生まれていた。
・怪異の正体やルールを明かさず、不安を持続させていた
何が起きているのか、どこまでが事実なのか分からない状態が保たれており、考えさせられる怖さが成立していた。
そのため、恐怖がその場で消費されず、長編ホラーとして積み上がっていく感覚があった。
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2.キャラクターの扱い・行動について
・登場人物が過剰に語られず、怪異のスケールが個人に回収されていなかった
前半の人物たちは「関わってしまった人」として控えめに配置されており、内面や過去が語られすぎないことで、世界が広く感じられた。
・人物の行動が即座に意味づけされず、不安を強めていた
なぜその行動を取ったのか分からないまま進む場面が多く、その曖昧さ自体が観客の不安を刺激していた。
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3.モチーフ・設定の使い方について
・情報や設定が説明ではなく「違和感」として機能していた
前半の要素はすぐに理解・消費されず、分からないまま残ることで不気味さが蓄積されていった。
・現代的な要素と怪異の結びつきが効果的だった
配信やネットといった身近な要素が怪異と結びつくことで、「今の生活圏に入り込んでくる怖さ」が成立していた。
・ニコ生(配信)へ誘導する字幕の演出が特に印象的だった
本来は安全な字幕が、見る側を誘導する装置に変わり、登場人物だけでなく観客自身も怪異に触れてしまったような感覚が生まれていた。
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4.ホラー表現・世界観のルールについて
・説明しすぎず、不可逆な怖さが保たれていた
怪異はすぐに対処されたり説明されたりせず、「関わったら終わりかもしれない」というどうしようもなさが維持されていた。
・恐怖が一話完結で終わらず、蓄積されていく構造だった
一つの出来事が終わっても疑問や違和感が残り、長編ホラーとして恐怖が深まっていく期待感があった。
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嫌だったところ(後半)
1.構成・物語の軸について
・前半で積み上げていた謎や伏線が、後半でほとんど機能しなかった
前半は断片的な情報を積み上げ、「場所」そのものの不気味さを主軸に進んでいたが、後半ではそれらが回収されないまま別の話題に移ってしまい、構成としての一貫性が失われたと感じた。
・後半で物語の中心が「語り部の過去」に急に切り替わり、軸がぶれた
観客が追っていたのは「近畿地方のある場所」と怪異の正体だったはずなのに、後半で新たに提示された個人的な過去が主題になり、これまで積み上げていた関心とズレが生じた。
・前半の完成度が高かった分、後半の失速がより強く印象に残った
丁寧に築いていた構造を後半で自ら手放してしまったように見え、期待値が高かったからこそ物足りなさが際立った。
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2.キャラクターの扱い・行動について
・先輩の再登場に至る過程が省略され、緊張感が成立しなかった
痕跡や噂を少しずつ拾い集める展開があれば「やっと会えた」というカタルシスにつながったはずだが、「実は連絡が取れました」という処理では、探索や不安の積み上げが無意味に感じられた。
・一度“失われた存在”として描かれた人物が、雑に復活した印象を受けた
退場によって生まれていた不可逆性や恐怖が、明確な代償や更新なしに取り消され、物語上の必然性が弱くなってしまった。
・なぞの少年やなぞの女といった存在が多く、恐怖が散漫になった
個々の存在は一瞬不気味でも物語全体に蓄積されず、それぞれが消費されてしまい、長編ホラーとしての恐怖の深化につながらなかった。
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3.モチーフ・設定の使い方について
・宗教や童話といったモチーフが、小道具的に投入されているように感じた
本来は物語の核になり得る重い要素であるにもかかわらず、前半からの積み上げがないまま後半で突然提示され、意味ありげな装飾に留まっている印象を受けた。
・赤ちゃんや流産といった題材が、「出せばホラーになるだろう」という扱いに見えてしまった
非常にセンシティブな要素であるにもかかわらず、物語上の必然性や掘り下げが乏しく、即効性のある材料として消費されているように感じ、感情的に冷めてしまった。
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4.ホラー表現・世界観のルールについて
・怪異がキャラクター化・対立構造化され、ホラーの質が変わった
得体の知れなさが怖さの核だった前半に対し、後半では分かりやすい構図が前面に出て、ホラーというより怪獣大戦争のような印象になった。
・車で怪異を轢く描写により、世界のルールが急に軽く感じられた
物理的に対処できてしまう描写が入ったことで、前半にあった不可逆な怖さが弱まってしまった。
・説明が増えたことで、想像の余地と世界の広がりが失われた
個人的・内向きな説明が増え、前半にあった「どこまで広がるか分からない怖さ」が薄れてしまった。
