「「現代」と「伝承」の接続に失敗した迷作」近畿地方のある場所について frmさんの映画レビュー(感想・評価)
「現代」と「伝承」の接続に失敗した迷作
原作は未読。映画を見終わった記念に読み始めたところ。
映像自体はまま面白い。
序盤〜終盤手前までは昨今流行りのモキュメンタリーホラー調。
赤楚衛二と菅野美穂の解説・解明を挟んでテンポよく進んで行くパートは、映画らしい尺と情報量の詰め方がされていて丁寧な印象。
行方不明児童事件、集団ヒステリー事件、ダム自殺事件といくつかの事件。それらを線で結ぶ「まさるさま」あるいは「ましらさまorましろさま」だったか、あるいは「やしろさま」伝説、つまりローカル信仰の呪い?として十把一絡げに回収するさまは爽快で面白かった。
一方ラスト10分の怒涛の展開、つまり菅野美穂の計画により邪神が完全顕現、赤楚衛二が生贄となって…という展開には冷めるところがあった。
なんというべきか、ベクトルが違う。そこまでとそこからで、脚本が交代したのか?と思うほど真剣さというかテイストが全く違う。
個人的にはそこだけをもって大幅に減点、というほどではなかったものの、真面目に観ていたのにアレを返球されるとちょっと戸惑う。監督の手癖らしい。なるほど。
個人的には「血が出るなら殺せる理論」というか、無敵だと思ってたら物理攻撃が効く怪異、ってそれだけでだいぶ怖さが薄れてしまうから好みではない。
映画としてもう1ヤマ欲しいというメタい事情は理解はできるが、うーん…
翻って、レビューのタイトルについて。
作中、そこそこの尺を使って近畿地方の架空の伝承「まさるさま」のいわれについて説明していくが、その「伝承」と現代に行われている「信仰や行動」がまるで接続できていないように感じた。
というのは、まさるさまのお話が「母の代わりを村の女に求める男が誰にも相手されず死に、怪異になる」という話であるのに対して、現代の信仰や呪いへの対抗策がお札を自作したり(ギリ分かる)、生き物を飼って依代とする(なんで?)など、全く伝承と絡んでこないのが地域伝承モノとしてものすごく気になった。
(追記:原作web版では2話で失踪少女が「お嫁さんになった」と発言する部分があり、きちんと伝承と接触している。なぜ映画ではここをオミットしてしまったんだろう…?
また、原作では言及されている地理関係-ある山を中心として東西に点在する異常現象-の描写も完全にオミットされており、映画ではだいぶ無理がある繋ぎ方になってしまっているというか、5号館であることが「効いてこない」印象。また御神体の岩が「必要とする人のもとに飛んでくる」という設定にしたせいで、原作が持つ「ローカル神話」という特色が薄まってしまった。)
特に生き物を飼えというのはかなり唐突に生えてくる設定であることも相まって違和感が強い。
更に細かく突っ込めば、昔話というのはえてして教訓があるものだが(でなければ子どもに読み聞かせ伝える意味がない)この話はただただ怖い怪異の報告書で終わっており、昔話としてもディテールがおかしいと感じる。この違和感はついぞ回収されることはない。
昔話を基にした子どもたちの遊び「ましろさま」は男女に分かれた鬼ごっこで、捕まった女子が身代わりとして何かアイテムを差し出すという遊びだが、こちらもただ不気味な遊びに終始して何の伏線にもなっておらず、勿体無い。昔話に身代わりの話が少しでもあればもう少し説得力が増すのだが…なぜそうしなかったのだろう?
また呪われる/呪われないの対象や条件そのものが不透明なのも気になった。
先ほどの依代の話と絡むが、まさるさまの信仰を絵本にした原作者のおばあちゃんや、実はまさるさま(やしろさま)をかつて信仰していた菅野美穂が呪われていないという事実が直感的に納得しづらい。
呪われる条件として「動画を見たら呪われる」ということであれば、地域伝承モノとインターネットホラーを合体したつもりなのだろうがその目論見は失敗していると言っていい。インターネットホラーは梨氏の『つねにすでに』という怪作が既にあるし。というか合体させたところで特に面白みがない。
依代と言えば、都合よく赤楚衛二のペットが死んでいてラストに彼が取り込まれる伏線として無理矢理に機能している点、
呪いの主がまさるさまであると仮定した場合に男が呪われる理由がよくわからない(昔話の内容を鑑みると、女に比べて取り込む動機が弱い。男女どちらでも良いという性質には到底思えない)点、
また、まさるさまが女を釣るための「柿」の下りが特に回収されない(現実に柿が転がってくるわけでも、柿をメタファーにとれそうな「何か」が現れるわけでもない。強いて言えば「目」だが柿とはどう転んでも繋がらない)といった部分のも気になった。特典のpdfファイルで「かきは柿ではない?」という仮説が示されているが、ここはもっと本編に活かしてほしかったところ。
また目を抉られて失踪している状態(まだ故人でない)の人々がおそらく多数いるはずなのに、本編最後で立ちはだかるのは首吊り男の子と誰かわからん女の二人だけ…など、説明不足というか、2時間の枠で明らかに回収しきれていない部分がある。
確かに、説明しすぎるとつまらないのは首肯するが、何でもかんでも肝心なところを隠してしまっては機能するはずの伏線も機能しない。
全体的に、ご都合主義と言われても仕方がない。
うまく回収できなかった設定も多々ある。
霊能力者が「猿?」と言ってみたり(たしかに「ましらさま」のましらとは猿を意味する単語ではあるが、そこで情報の繋がりが止まってしまう。そもそも邪神本体は全く猿の姿形てはない…)日蓮宗の和尚が「私には祓えない」と言ってみたり。
菅野美穂の動画が少なくとも3パターンある(額に傷、額にガーゼ、額の傷完治かつ菅野美穂の顔の造形がおかしくなっている?)点。SNSの拡散力を利用するという点であえて撮り直して再三アップするというのは不自然で不可解。ここもただ投げつけられた感。
なんというか変な映画だった。
まぁでも…興味があれば見てもいいんではないかと思う。映画としては楽しい。
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