「原作ファンには全くおすすめしません」近畿地方のある場所について ゲルおじさんの映画レビュー(感想・評価)
原作ファンには全くおすすめしません
原作ファンです。最初に言っておきます。
この映画は「原作ファンではなく白石監督ファン向けに作られた映画」になっています。
以下細かい感想を述べていきます。
◆文章と映像で媒体が異なるにしても、見た後の満足度が低すぎる
読者が1個1個の話を読んでいって繋げるという原作にあるような楽しさではなく、映画化にあたって「ある程度まで既にまとまってる情報を追っていく」形になっていて、これが追う楽しさを損なわせている。まあ仕方ないと言えば仕方ない。
話をまとめるためだろうとは思いますが、失踪した編集者の残した「既に分析済みの情報」をただ追っていくだけの形なので、何の起伏もないストーリーでした。
◆映像自体は良いのに演出の詰めが甘いし音響に頼りすぎ
序盤のニコ生主凸映像パートが映像の出来、音響演出の恐怖的にはピークでした。ここが非常に良くできていて期待が高まったのですが、あとはダラダラと同じような物が流れ続けるので勿体ない映画だなと思いました。
白石監督の『ノロイ』でも炸裂していたような、「昔っぽい」映像の数々の出来栄えは全体を通して良くできていたと思います。
ただ中盤以降は下がる一方で、「なんかそれっぽい映像に大きな音量で不協和音合わせてるだけ」な作りで、とにかく全体的に雑だなと感じた。本当にただただ「それっぽい」止まりな印象。
ジャンプスケアという程の事は無いんですが、単純に大きい音量で不協和音入れてるだけという雑なシーンが多すぎます。音で誤魔化そうとしすぎです。
大きい音に驚いてるだけで、そこに恐怖は存在していません。
演出が雑なのでじわじわくる恐怖も無く、かといってジャンプスケアも無く、ただでかい音が聞こえてくるだけ。その後はまた次のシーンへ…という繰り返しで正直退屈でした。
また作中の映像資料の演出の雑さも感じていて、昔の映像なのに髪型がセンター分けとか今風すぎる子が見えるなあと思っていたら、ギャルのデコったガラケーとかの小物には拘れるようだったので統一感がなく、シンプルに「詰めが甘くね?」となりました。
髪型やファッションの流行が巡るとは言っても、年代的に整合性が取れないんですよね。それがノイズに感じました。多分これは私が気にしすぎだからなので、普通の人はスルーできるんでしょうね。知らんけど。
◆終盤がコメディ映画すぎる
コワすぎシリーズからの輸入なのか、あまりにも“暴”すぎる菅野美穂がおもしろくて、後半にかけて笑いこらえるのしんどかったです。
狭いトンネルで前後を怪異に挟まれたのでバックで助走つけて車で轢くのはもう笑いが止まらなかったですね。
この点は「白石晃士監督のファンなら楽しい」ポイントですが、原作ファンからしたら「原作の良さぶち壊すくらいなら最初からオリジナル脚本で映画作れよ」としか思いませんでした。
わざわざお金払ってホラー見に行ってるんですよこっちは。バカにされている気分でした。
◆原作ファンとして特に解釈違いだなと感じたポイント1つ目
林間学校の集団ヒステリーのシーン、YouTubeに上がってる予告でも既に出てるんですが
原作を読んで「暗闇から普通の男性の声で呼びかけられる違和感」を想像して怖いと感じていたんですが、映像化で「いかにも化物な声」になっていた点は解釈違いでした。
あそこは「そこに居る/有るはずのない普通の人っぽい何かからにじみ出る違和感」こそが恐怖を産むところだと思うんですが、あからさまに化け物だと「ですよね」としかならないです。
この点はまあ原作読んで無ければスっと受け入れられるかもしれないですが個人的にはダメでした。
◆原作ファンとして特に解釈違いだなと感じたポイント2つ目
最大級に解釈違いで飲み込めない点なんですが、この映画が何よりも原作破壊をしているなと思ったのは「映像に撮りすぎ」という点です。
「怪異自体の不明瞭さ」が私はこの作品の最大の怖さであり魅力だと思ってるんですけど、めちゃくちゃ映像に撮って形にして見せてくるので興醒めします。
終盤にかけて感情が無になり、真顔でため息をつきながら観ていた気がします。
映像化にあたって話をまとめるのがめんどくさくなったのか、安易な展開と安っぽいCGに逃げているようにしか見えません。
「ああ〜原作ちゃんと読んでないのかな監督」としか思わなかったです。
なんで『近畿地方のある場所について』を観に行ったのに『コワすぎ』を見せられないといけなかったんですか??
映像化、商業映画化にあたってはある程度改変しないと成り立たないでしょうし、まあ難しかったとは思うんですけど、原作読んだ上で自分の作風を出したくてアレをやったのなら下品だなとしか思いません。
人の看板借りてやっていいようなクオリティの仕事じゃないんですよはっきり言って。監督オリジナル作品で同じことやってれば良かったじゃん…なんでこの作品でこんなことするんですか…
原作者の背筋先生は白石監督のファンのようなので、おそらく喜ばれているのかと思いますが、原作を読んだファンの1人としてはとにかく残念で仕方なかったです。
鑑賞後は最悪の気分でした。
まあエンタメとして商業映画として成功させるために仕方なかった、として受け入れるしかないんだろうと思いますが、私は2度と観ないです。
総評として、タイトルにも書いた通り「原作ファンには全くおすすめしません」というところです。
今年はJホラーも多く期待していた作品だけに非常に残念でした。
共感ありがとうございます!
原作ファンの方には苦行の作品でしたね。白石監督は本作で「貞子vs伽椰子」の時のようなホラーへの情熱がなぜ出せなかったのか、私はその部分がとても不思議でした。
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