「子供の社会」Playground 校庭 レントさんの映画レビュー(感想・評価)
子供の社会
終始身につまされる思いで見ていた。本作は意図的にそのように作られている。誰もが経験した子供時代、その時に味わった様々な苦い思い出をこの上映時間いっぱいに凝縮したような作品。
幼いころ家庭とは違う未知の学校が怖くて不安だった。教室であてられるとき、体育の授業で自分の番が回ってくるとき、その時感じた緊張や不安、そういったことが主人公のノラの視点を通して見る者に生々しくダイレクトに伝わってくる。そんな絶妙な演出がなされている。
残酷な子供社会、誰もが身に覚えのあるいじめや仲間外れ、自分がいじめられたり仲間外れにされないよう常に気を配ったことや、いじめられたらただ黙って耐えていたこと、虫を踏み潰すように相手の痛みもわからず面白半分にいじめていたこと。いじめる側の心理、いじめられる側の心理、それがよくわかるだけに見ていて本当に身につまされる作品。
そんな子供時代でしか味わえない体験を本作は再び味わわせてくれる。それはとにかくつらい。つらさが身にしみてわかってるだけにリアルにそれが伝わってくる。
大人は社会に出たら大変だけど、子供だって大変だ。学校は社会の縮図だ。子どもは大人の庇護下にあるようでその実、誰も助けてはくれない。この社会で何とか生き残るすべを子供らは自分で身に着けていくしかない。たとえ卑怯でもなんでも自分が生き延びるためには手段なんて選んではいられない。それが悪いことだとわかっていても。
ただ、本作はラストにかすかながら救いを与えてくれる。いじめられていたお兄さんが一転いじめる側に移り、ただ自分がいじめられたくない一心で他の子をいじめる。そんなお兄さんを妹のノラは優しく抱きしめる。もうそんなひどいことはしないで、そんなことしなくてもいいんだよと、優しく抱きしめる。そんな妹の思いに答えるようにお兄さんのアベルは抱きしめ返す。
どうすればいじめをなくせるかそれは本当に難しい。大人の社会にもいじめはある。どんな社会にも存在するいじめ。それに立ち向かうのは愛情しかないのかもしれない。いじめていたガキ大将も愛に飢えていたのかもしれない。アベルを抱きしめてくれるノラのように彼には抱きしめてくれる人がいなかったのかもしれない。彼を厳しく罰しても何も変わらないだろう、彼がいなくなってもまたいじめは起きるだろうし。それは永遠のいたちごっこなのかもしれない。でも本作はそんななかにかすかな希望を抱かせる。
本作はあの頃の自分へと引き戻させてくれる凄まじい体験型ムービーだった。