「一人の悩める男」陪審員2番 赤ヒゲさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5 一人の悩める男

2025年9月7日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

法廷ものの金字塔ともいえるシドニー・ルメット監督作「十二人の怒れる男」(57)を頭の片隅に思い出しながら、程よい緊張感に包まれた緻密な物語に固唾を呑んで見入ってしまいました。物語そのものは至って平凡な、日々のニュースでも出てきそうな題材でありながら、よく練られた脚本、俳優の自然な演技、そして何よりもストーリーテリングの妙によって、ぐいぐい引き込まれました。例えば、見せていく順序によっても全く違った作品になったと思いますが、事件当時の回想シーンをバラバラにして、どこで誰が何を回想するのかが絶妙なタイミングになっているので、登場人物らの心理状態の細やかな変化がしっかりと伝わってきました。主人公ジャスティン・ケルプ(ニコラス・ホルト)と妻アリソン・クルーソン(ゾーイ・ドゥイッチ)の過去の経緯をどこで観客に伝えるのか、それによっても印象は全く違ったものになったように感じます。印象といえば、本作の大部分を占める陪審員のやりとりの中で、各陪審員が様々な立場や経験に基づく犯人に対する印象によって有罪、無罪の判断をしていることを丁寧にフォーカスしていくところも見所でした。本人が「事実」と信じて疑ってないがゆえに、様々なバイアスによって見方を誤ることや、強い正義感による思い込みや、無意識下の自己都合が影響してしまう人間の身勝手さをじわじわとあぶりだしていく演出は非常に見応えがありました。J・K・シモンズやキーファー・サザーランドがしっかり脇を固める中、ニコラス・ホルトとトニ・コレットの演技は本当に素晴らしかったと思います。あのラスト・シーンもいいですね。誰が監督なんだろうとエンドロールを観ていて、クリント・イーストウッドの名前を観た瞬間、膝を打ってしまいました。94歳でこんな仕事をしているなんて、本当に感嘆いたしました。

赤ヒゲ
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