「【”確証バイアスに囚われた陪審員、検察官。だが・・。”今作は”十二人の怒れる男”クリント・イーストウッドヴァージョンであり、真の良心、正義とは何かを描いた重いヒューマンドラマなのである。】」陪審員2番 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”確証バイアスに囚われた陪審員、検察官。だが・・。”今作は”十二人の怒れる男”クリント・イーストウッドヴァージョンであり、真の良心、正義とは何かを描いた重いヒューマンドラマなのである。】
<Caution!内容に触れています。>
■ジャスティン・ケンプ(ニコラス・ホルト)は、身重のパートナー、アリソン・クルーソン(ゾーイ・ドゥイッチ)と暮らす物静な男である。
ある日、彼の元に陪審員の召喚状が届く。彼は辞退しようとするが、裁判長から”仕事と同じ時間には返すから。”と言われ引き受ける。
被告は、ケンドル・カーター(フランチェスカ・イーストウッド)の恋人で、旧道沿いのバー”ハイド・アウェイ”で喧嘩していたジェームズ・サイス(ガブリエル・バッソ)という全身刺青の入った大男である。
多数の人がその喧嘩を目撃しており、大雨の中、彼女を追って行った彼の仕業であると、多くの人が疑わない。
そして、第一回目の陪審員裁判でジャスティン・ケンプは、一人ジェームズ・サイスの無罪を主張するが、被害者ケンドル・カーターの旧道脇の小川に墜死している写真を見て、トイレで激しく嘔吐するのである・・。
<感想>
・今作は非常に重厚で、見応えがあるヒューマンドラマである。12人の陪審員同士の協議の間に、事件当時の光景が何度も映し出される。
そこには、ケンドルとサイスの姿の奥に、ウイスキーの入ったグラスをテーブルに置いて彼の人生の中でも素晴らしき日になる筈だった日に、ある哀しき出来事が起きてしまったために沈痛な表情をしながらも、飲むことを逡巡しているジャスティン・ケンプの姿が映し出されるのである。だが、彼がグラスに口を付けている姿は、最後まで映し出されない。
■陪審員同士の協議中に明らかになる、数名の陪審員の真実の姿。
1.ハロルド・チコウスキー(J・K・シモンズ)・・22年間、殺人課の刑事をしていて、リタイア後は自適生活。だが、彼は刑事の経歴から”サイスは無罪ではないか、実はケンドルは何者かにひき逃げされたのではないか”と疑い始める。
2.マーカス・キング(セドリック・ヤーブロー)・・17歳の弟がサイスと同じ刺青をしていて、抗争中に流れ弾に当たって死んだ辛い過去を持つ。故にサイスの有罪を固く信じている。
3.ジャスティン・ケンプ・・4年前に急性アルコール中毒で死んでもおかしくない程、酒を飲み運転し、木に激突するもその後は断酒会に通って酒を断っている。
そして、ハロルドと独自に調査を始めるが、その事がきっかけでハロルドは陪審員を外される。
ご存じのように陪審員が独自に捜査する事は禁じられており、更に元刑事と言う事もありハロルドは居なくなる。ここが大きなポイントになってしまうのである。
・この作品の脚本が上手いのは、ジャスティン・ケンプが酒を飲んでいる所を映さずに、只彼が自分の車である緑のSUVのハンドルに凭れて泣いている姿を映している所である。
そして、彼がバーに寄った後に、激しい雷雨の中、旧道を、運転している際に何かにぶつかったシーンで、何とぶつかったかは映されずに”鹿に注意”という標識が映される所である。
解釈は観る側に委ねられるが、矢張りケンプが哀しみを紛らわすために、少しだけ酒を飲んでしまい、”何か”を撥ねたのだろうという事が推測出来る、と私は思ったのである。
■ここからの、ケンプを演じたニコラス・ホルトの良心と、身重の妻を想う気持ちとの間で揺らぐ心を演じる様が、抜群である。
又、それまで直ぐに裁判が終わると思っていた検察官フェイス・キルブルーを演じたトニ・コレットが、徐々に独自に捜査していく過程で、ケンプが緑のSUVでケンドルを撥ねたのではないかと言う疑念が膨らむ様や、自身が裁判に勝てば検事正に昇進するという思いの狭間で悩む姿も抜群である。
<そして、陪審員達が出した判決。それは、サイスは有罪であるというモノであった。サイスは無期懲役、しかも減刑なしと裁判長から言い渡される。その際に、検察官フェイス・キルブルーに笑顔はない。
その後、彼女はケンプと会い、二人は夫々の正義について短く語り合うのである。
ケンプには娘が生まれ、妻と幸せを分かち合っている時に、家の玄関のドアがノックされ、ケンプがドアを開けるとそこには真剣な表情のフェイス・キルブルーが立っており、画面は暗転するのである。
今作は、”十二人の怒れる男”クリント・イーストウッドヴァージョンであり、真の正義とは何かを描いた重いヒューマンドラマなのである。>
■もう”MALPASO”という文字を、新作で観る事は出来ないのだろうか・・。