「キャラ映画としては面白いけど...」名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック) こうらさんの映画レビュー(感想・評価)
キャラ映画としては面白いけど...
面白かったですがクオリティとしては今一つな印象を持ちました。
前置きですが、かなり重箱の隅までつついた上での評価になります。
まず、事件の展開自体は「相棒」とか好きならハマれるんじゃないかと思います。殺人事件の裏に見え隠れする公安警察の暗躍と国家を揺るがす大事件。マクロな犯罪に潜むミクロな動機という構図は脚本家の櫻井さんがよく使う手法で、「相棒」を観てる気分。また捜査会議や刑事たちが一堂に会するシーンは刑事ドラマが始まるんだと大人向け、渋い名作と言う評判を聞いていたのでワクワクしました。
細かいファンサービスも良かったですね。敢介の過去の遭難、小五郎が銃の名手という設定や風見とコナンのやりとり、高木と佐藤が警察官の使命を犯人に語り説き伏せるシーン、などなど原作映画問わず過去作のエピソードを拾ってきていてオッとなりました。映画の名乗りを本編に出しているのは笑っちゃいましたが。
ただ話が進むにつれ近年のコナン映画特有の大味な展開が目立ち始めます。
まず、映画恒例ある意味原作通りですが動機に比べてやってる事がやっぱりぶっ飛びすぎてる犯人。
政府脅迫なんてする前に鷲巣を探し出して復讐するとか(ダメだけど)世の中に訴えかけるとか色々出来ることあったし(試みたかもしれないし、そもそも立場上難しかったとは思いますが)、思い出の品とはいえ証拠を処分しないの迂闊過ぎるし(せめて持ってくるな)、結果的にワニを殺す意味があまりなかったしそのせいで追い詰められてるし、色んな意味で公安刑事としての適性を疑わざるを得ない人物でした。黒の組織入った方が良かったと思う。
そしてそれをスカウトした公安全体や内調にも疑問が浮かびます。「隠れ」公安同士がお互いそうだと分かるのは保秘の観点からマズイと思うし、刑事たちはまだいいとしても完全一般人の越智さんや蘭の前で隠れ公安だの内調だのベラベラ喋るなよ。
公安という組織を分かりやすくカッコよく描きたいという意図は分かりますし、そういうのは自分は好きなんですけどどうも細かい描写が追いついてないんじゃないかと思うんですよね。
フィクションにアレコレ言うのも野暮なんですけど、下手に内調だとか公安だとか小難しい政治的な要素を入れたことで細かい粗が悪目立ちしているように感じました。出すなら描写はもう少しリアリティというか、常識的に考えておかしくない描写を考えた方が良いと思います。
ミステリー面について。これは近年の傾向ですけどトリック(?)があんまり意味を持たないもので、「ミステリーとして上出来」という評判の割にはミステリー要素薄かったなという印象。ほとんど公安の情報頼りで解決した事件でした。2サスの方がまだ推理してると思います。今回は「相棒」にでてくるような警察や政治的な要素を含んだ話なのでミステリー要素は薄くてもいいとは思うんですけど推理アニメ謳ってるならもうちょっと推理させてやってほしい。
キャラクター面ですが、まずコナンはいつもどおりの活躍ですね。超人シュートを躊躇もなく繰り出すコナンとそれを誰も突っ込まない刑事たちを見て感覚麻痺してるんだなと思いました。
メインを張った小五郎さんは犯人の反応の不自然さに気づいたくらいで(それでも普段の小五郎に比べれば大金星レベルですが)、結局推理面ではあまり活躍しないんだなとそこはがっかりでした。ただ銃の腕は相変わらずピカイチ、推理をする探偵というよりハードボイルド小説に出てくるような探偵としては名探偵でした。
長野県警組も推理面での大した活躍はなし。「犯人の狙いは敢介の記憶だ」って考えを「もうわかってるよそれは!」ってくらいローテで喋ってる印象でした。銃撃戦(バンバカ撃って大丈夫?)や景光の幻影を振り切った高明の独白シーンはよかったですね(水中で銃使えるの?)
被害者のワニですが、初出のキャラクターで開始数分で殺されてしまったので、本気になる小五郎にイマイチ感情移入ができなかった。珍しく慟哭する小五郎にウッとは来たし理解はできるんですが、もうちょっと彼との関係性が分かるエピソードが欲しいなと思いました。ただコナンはレギュラーキャラは死なせないので下手に登場回を作ったりする事も出来ないし難しい所だとは思いますが。あとワニは結局小五郎に何を聞きたかったのかが分からなかった。本人さえ記憶がないのに第三者の小五郎が何を知っていると思ったのか。正直、小五郎を本気にさせるために殺されたキャラという印象が強く不憫に思えてきました。
警視庁のコンビは事件ではあまり見せ場なかったけどラストの説教で花を添えました。ただ犯人のやってることがやばすぎて警察官として〜とかそういうレベルの話じゃないんじゃないかとは思いましたが。
映画だと足を引っ張る事が多い少年探偵団や蘭は犯人の手がかりをつかんだりラストで足止めしたりと大金星。歩美ちゃんの影が薄かった。
内調の長谷部はキャラとしては良かったですけど出した意味があまりなかったような...原作に逆輸入されるのでしょうか?
安室と風見はゼロの時にも思いましたが黒の組織捜査してるのにこんな事に首突っ込んでる暇あるのかとか目立ちすぎて組織に正体バレやしないかと思います。組織の関与を疑ったのかな。人材不足なのか、指揮官?上役?のはずの安室が潜入捜査しているのがそもそもおかしいですが。
犯人は上の通りですが、付け加えるとそんなことする精神性だから彼女に寄り添えられず自殺されるんだろと思いました。
キャラ映画としては面白くて観てる間は楽しめたんですが後から後から細かい所々が気になりすぎてこの評価になりました。
「公安」「長野県警」「小五郎メイン」というそれぞれで一本作れるレベルの要素をぶち込むのは良いんですがそれぞれがあまり上手く噛み合ってない、主に言うと小五郎と長野県警を同時にメインに合わせる必要あった?って感じです。それぞれ一つずつメインで作ってたら見たかった、見れたかもしれない描写が今一歩作りきれてない感じ。
例えば公安要素に絞って一本作ったらせっかく「隠れ公安」というワードが出てきたのだから同僚を欺く潜入捜査員の孤独や悲哀だったりとかを描けたと思うんです。(安室さんはそういう面はあまり描かれないし)
「小五郎メイン」や「長野県警」にしたって、彼らをどちらも活躍させようとした結果、推理要員として彼らの活躍も薄くなってしまいました。正直、小五郎まで活躍させる必要はなかったかなと。それなら推理で活躍する小五郎メイン一本で見たかった。
さらに下手に大人向けを売りにしているので粗が目立ってしまうんですね。そういう意味で言うとコメディ要素が強いまじ快やYAIBA路線に振り切った去年の方がまだ気楽に見れて良かったと思います。
子供向けではないですが大人向けでもない、総じてファンが喜ぶ要素をごった煮したファン向けの作品だと思います(そりゃメイン層はファンだろというツッコミは置いといて)。ラストのヒロのくだり、自分はちょっと浮いて見えたんですが、そういうシーンにもその側面が現れてました。それが良いか悪いかは別にして、なんでもファンの期待に沿ってお話よりもキャラやその関係性を重視している近年のコナンの傾向を現しているように見えて何だかなあと思いました(そればかりじゃないというのは分かってますが)。キャラ同士の絡みや掛け合いだったりは自分も好きな所あるので無碍に否定はできないですが、人間関係が際限なく膨らみ続けてて今のコナンは整理するのが大変です。来年のメインの横溝弟もまさか千速絡みで目立ってくるとは思わなかった。コナン、本当に完結できるんだろうか...
色々ボロクソに書いた部分はありましたが、あまり深く考えすぎずに見れば面白かったのは確かです。
ただ、「重厚ミステリー」「大人向け」とか感想述べてる人はちゃんと見てるのかな?とは思います。そんなものではなくて「ファンだけに向けたコナン映画」それに尽きます。
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