「初恋にも青春にも復讐しなくていい幸せ」リライト LittleTitanさんの映画レビュー(感想・評価)
初恋にも青春にも復讐しなくていい幸せ
大林宣彦好きなので、尾美としのりさんが出てきた時点でアガるのですが、周到な伏線と幾段階もの種明かしが心地よい快作でした。初見では致命的な破綻もなく大きな不満はないのですが、処々にある説明不足すぎて観客の好意的解釈に頼る部分だけ減点し、95点評価としました。
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1. 序盤で油断させる「時かけ」オマージュ
上田誠・脚色で、尾美としのり(担任)と未来人が尾道に登場したら「時をかける少女」っぽい話なのねと予想する。大林作品を腐したくはないが、「時かけ」はあくまで中高生向けのジュブナイル小説が原作で、ハードSFに馴れた自分には歯ごたえがなかった。「未来人」て呼び名も、ダサすぎへん。なので自分は序盤、映画館に来た事を少し公開する程に、大いに油断させられた。面白いとの評判だったが、SF風味の恋愛映画なんだ...と。まだJK姿が通用しまくっている池田エライザ様の麗しさだけが救いだった。
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2. 二股?三股?疑惑にゆれる中盤
祭りの夜の酒井茂(倉悠貴)の耳打ちが怪しすぎて、彼も未来人なの?と見当違いな疑いは生じた。しかし、複数の級友がヒロインと同じ物語をしたためている事実を突きつけられ、未来人の二股?三股?疑惑が沸き起こり、酒井茂の関与疑惑も強まる。ただこの時点では、未来人の動機(目的)が検討つかない。女たらしなのかもしれないが、別れ際にヒロインを求めたキスへの戸惑いには、プラトニックな関係しかみられない。何なら、その戸惑い方に、未来人がヒロインの子孫なのかもしれないとミスリードさせられた。
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3. 同窓会の種明かし(第1段階)
同窓会前にも真相は小出しされるが、同窓会の終盤に決定的な種が明かされる。元の時代にもどれなくなった未来人は、この時代に来るキッカケとなった小説の著者に、小説と同じ体験をさせてループの完成を試みる。しかし、著者が誰か分からないまま、最終的に34名の級友と20日間デートを繰り返す。同窓会も、困り果てた未来人を助けるために協力した酒井茂が、懺悔の為に開いたものだった。
ループする度に、同じ20日間に未来人が溜まっていく画は(映画館なので控えめに)爆笑した。狭いお祭り会場に、34人の未来人がバッティングせずにデートを行っていていたとう設定が箍が外れすぎていて愉しい。この不可能過ぎるミッションを、リハーサルも無しに本番一発で実現させたのなら、酒井茂が凄腕過ぎる。実人生でもその能力を発揮して訂正して欲しい。
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4. 雨宮友恵の種明かし(第2段階)
最終盤、母校の図書館で雨宮友恵が真相の全貌を語る。友恵を未来人の運命の相手にしたくなかった酒井茂の恋心のせいで、友恵は34回目のループの相手となる。しかも、10年後の自分がタイムリープして来た事で、友恵はJKの時点で34股の事実も、自分が未来人の運命の相手である事も知っていた。ただ、だからこそヒロインの美雪の体験に激しく嫉妬する。人目を避けざる得なかった34回目のデートは、初期のデートに比べると地味すぎた。33回選ばれなかった理由も、自分がクラスで目立たない存在だったせいと思い込んでいた筈。
だから、雨宮友恵の10年は復讐の為の人生だった。未来を変えようと引き止めて、結婚までした未来人の事は本当に好きだったのだろう。ネグレクトした両親にも、馴染めなかったクラスにも頼れなかった友恵にとって、20日間デートした未来人は縋らざる得ない救世主だった。ただその為には、自分が小説を書いて300年後まで遺さなければいけない。他の誰にも先を越されてはならない。夫を誰にも渡せない。高校時代の淡い思い出に誘われてなんとなく執筆業に就いた級友とは覚悟が違う。恐らく、友恵は10年の殆どをその事に費やした筈。
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4. 初恋に青春にも復讐せずにいられる幸せ
初恋相手を夫にし、髪も染め派手な服をまとい、自信満々に同級生を小馬鹿にする友恵は、確かに幸せを掴めたのかもしれない。しかし、彼女は10年間、人生をちゃんと謳歌でたのか? 初恋の相手と添い遂げる事自体は悪くない。ただ、高校生の20日間デートしただけで、相手をどれだけ見極められるか? 実際、33人は未来人の思惑に気付かなかった。彼女が未来人を選んだのは、自分を軽んじた彼や同級生への復讐なのではないか。未来人との結婚も10年後の自分に予告されていた筈。ならば、彼女の人生に選択肢はなかった。寧ろ、出版を誰にも先んじられてはならない重圧もあった筈。しかも、10年を注いだ小説すらも、美雪の経験談をrewriteしたものに過ぎない。
一方、ヒロイン・美雪も、未来人との想い出に囚われて作家を目指し、10年後のタイムリミットにも執着はしていた。ただ、その間に他の作品も上梓し、仕事仲間と結婚した美雪の囚われ具合はかなり軽度。折角の淡い初恋は、できれば偽りだったと汚されたくはなかったろう。ただその逸話自体、数年後には笑い話にできる程度の浅い傷。初恋や青春の復讐に掛けた友恵の10年間に比べ、作家に成長した美雪の人生の方がはるかに羨ましい。
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5. 3人いた運命の人?
細い処で矛盾を感じたのが、結局誰が運命の人かって事。未来人は小説「Endless summer」を読んで現代に来て、自身が小説の主人公だと確信する。だから、小説の著者に同じ経験をさせてループを完成させねばと思う。そこで、1人目の増田亜由美(大関れいか)と小説通りのデートをした時に、「運命が決まっているから、デートも自然と小説通りになる」と感じるが、これって変じゃない? だって、亜由美告げたタイトルも違うし、結局彼女は小説を断念するので、運命の人じゃなさそうな気がする。ならば、運命じゃないから誘導せずとも小説通りになる訳がない。
ただ、辻褄を合わせようと好意的に解釈すれば、亜由美との経験で実際のデート現場を実体験した未来人は、2人目以降相手を誘導できるようになった可能性もある。つまり、亜由美は著者ではなかったが、小説通りのデートを本当の著者に経験さえる為の準備に必須だったという意味で「運命の人1」だったのかもしれない。
次の問題は、本当の著者が2人居る事。「Endless summer」の最終著者は雨宮友恵で間違いないが、34人目でデートできる場が限定されていた友恵は小説に書かれたデートを経験できていない。つまり、ヒロイン・美雪が書いた元ネタがなければ、未来人が読んだ小説は再現できない。って事は、ループの完成に美雪とのデートは必須であり、美雪も「運命の人2」だったと考えるべき筈。 つまり、亜由美と美雪と友恵の3人とも「Endless summer」の完成には必須であり、運命の人は3人いたのかもしれない。
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