「タイムリープの設定に問題あり」リライト Dickさんの映画レビュー(感想・評価)
タイムリープの設定に問題あり
❶相性:中。
★タイムリープの設定に問題あり。
➋時代:2009年(10年前)と2019年(現在)。
❸舞台:広島県尾道市、同瀬戸田高校、他。
❹主な登場人物
①石田美雪(池田エライザ、28歳):主人公。高校時代に未来人の保彦と出会い、恋に落ちる。保彦の薬で未来の美雪と会い、保彦との思い出を小説に書くことを要望される。保彦との密なコンタクトは4番目。現在は東京で作家。5年前に持ち込んだ処女作『少女は時を翔けた』は見送りとなり、別の4冊が出版された。処女作は「母校が舞台で、未来から転校生がタイムリープしてくるSF青春ミステリー」で、その後、美雪が手直しして出版の目途が立つが盗作疑惑が起き、つぶれてしまう。
②園田保彦(阿達慶、19歳):300年後からやってきた未来少年。現在に書かれた小説に憧れて、転校生としてタイムリープしてきたが、タイムパラドックスが起きて未来に帰れなくなってしまう。それを解決すべく、茂の協力を得て、クラス34人全員と密なコンタクトを行い、目途がつく。人の記憶を消す超能力を持っていて、実行するとラベンダーの香りがする。
③雨宮友恵(橋本愛、28歳):美雪の同級生。父からDVを受けている。文学少女。美雪とは本や映画の話を親しくする中だったが、落とした鞄の中身を美雪が拾おうとして、それを拒んだことから疎遠になる。保彦との密なコンタクトは33番目。現在は東京在。美雪の初稿を友恵がリライトした『エンドレスサマー』がペンネームで出版される。
④林鈴子(久保田紗友、24歳):美雪の同級生。現在は、地元紙のライターとして働いている。地元に帰ってきた美雪と久しぶりに再会する。『少女、翔ける、時』と題する本を執筆中。
⑤酒井茂(倉悠貴、25歳):美雪の同級生。誰にでも優しく世話焼き。現在、同窓会にクラス全員を集めるべく、幹事として奮闘している。保彦のタイムパラドックスを解決するために協力する。
⑥長谷川敦子(山谷花純、28歳):美雪の同級生で、クラスのマドンナ。女優を目指していたが、現在は脚本家志望。小説を書いていてタイトルは『タイムリープ・ガール』。
⑦増田亜由美(大関れいか、27歳):美雪の同級生。明るい性格でクラスの中心人物。現在は介護士をしている。本を書いて同級生の友恵に見せたら、酷評されたと文句を言う。
⑧桜井唯(森田想、24歳):美雪の同級生。クラスの優等生。地元の新聞社に就職し、新聞記者として働いていて、本も書いていて、美雪に出版社を紹介してほしいと頼む。本のタイトルは『ガール・ミーツ・ガール』。
⑨西山晴子(福永朱梨、30歳):美雪の同級生。現在は一児の母であり、地元で美容師として働いている。ネットに小説を投稿していてタイトルは『翔ける、少女は時を』
⑩室井大介(前田旺志郎、24歳):美雪の同級生。クラスのムードメーカー。2017年に交通事故で亡くなる。2009年の室井が2019年にタイムリープしたとき、自分の位牌があり、家族が3回忌をしていることを知り、ショックを受ける。
⑪細田先生(尾美としのり、59歳):美雪たちの担任。転校してきた保彦をクラスに紹介し指導する。
⑫大槻和美(石田ひかり、52歳):美雪の母親。
⑬石田章介(篠原篤、41歳):美雪の夫。2016年に結婚。職は出版関係。美雪に盗作疑惑が出て調査する。
⑭佐野(長田庄平、44歳):美雪の担当編集者。美雪が2014年に持ち込んだ処女作『少女は時を翔けた』は難があり見送りとした、その後別の4冊を出版した。処女作は美雪が手直しして、出版の目途がついたが、別の編集者から、そっくりな本があると聞いて調べると、それは2年早い2012年に執筆されていた。
⑮多岐川(マキタスポーツ、54歳):編集者の1人。
❺考察1:本作の背景
①本作の舞台となった尾道は、小津安二郎監督の名作『東京物語』(53)の舞台であり、同市出身の大林宣彦監督が『転校生』(82)や『時をかける少女』(83)をはじめとした“尾道三部作”の舞台に選ぶなど、多くの映画人に愛されてきた“日本映画のふるさと”とも呼ばれる特別な場所。
②松居大悟監督インタビューによると、本作は、「大先輩にあたる大林監督が、『時をかける少女』を尾道で撮っていて、『リライト』の原作の舞台とは異なるものの、同じ“時間”をテーマに扱った作品として、尾道で撮影することに大きな意味を感じた」と語り、大林監督へのリスペクトを込めたことを明らかにしている。
③筒井康隆のタイムトラベルSF小説『時をかける少女(1967)』は、これまでに実写とアニメを合わせ、9回にわたり映像化されているそうだ(Wikipedia)。全作を観ているわけではないが、実写版では、本作は、下記2作を合わせた内容に近いようだ。
ⓐ『時をかける少女 (実写1983)』:
1983年、高1の主人公・和子が、677年後の未来から、必要なラベンダーを求めて、同級生としてタイムリープしてきた薬物学者の一夫と知り合い、不思議な体験をする。11年後、薬学の研究者となっていた和子は、勤務先で一人の青年に道を尋ねられる。青年は確かに一夫だったが、和子はそのことに気づかないまま行き先を教え、二人は別の方向に歩いていく・・・。
ⓑ『時をかける少女 (実写2010)』:
和子の一人娘・あかりを主人公に、女子高生のあかりが、交通事故で昏睡状態に陥った母の頼みで母の初恋相手・一夫に会うため2010年から1970年代へタイムリープする・・・。
④一方、脚本を担当した上田誠は「時間SF」を得意として、左記のコメディ4作が上出来で楽しい。
ⓐ『サマータイムマシン・ブルース(2005)』:ある日突然目の前に出現したタイムマシンを巡って思いがけない事態に巻き込まれる学生たちの姿を軽快なテンポで綴るコメディ。
ⓑ『ドロステのはてで僕ら(2020)』:雑居ビルの2階と1階のTVが2分の時差で繋がっていたタイムテレビのコメディ。
ⓒ『四畳半タイムマシンブルース(2022)』:真夏の京都を舞台にタイムマシンで昨日と今日を右往左往するコメディ。
ⓓ『リバー、流れないでよ(2023)』:京の奥座敷と呼ばれる貴船を舞台に、雪が降りしきる真冬の季節に、繰り返す「2分間」から抜け出せなくなってしまった人々の混乱を描くタイムループコメディ。
❻考察2:重大なロジック問題
★本作のロジックには2つの重大な整合性の問題がある。以下に説明する。
①時は西暦2311年の未来。保彦は、骨董屋で買った古書の内容に興味を持ち、舞台となっている2009年の尾道の高校にタイムリープする。天才少年・保彦は、タイムリープ出来る薬を発明していたのだ。
②保彦は美雪のクラスに転校生として編入され、美雪に町を案内してもらう。
③保彦のタイムリープには、条件があり、古書の作者を見つけないと、パラドックスを起こして、未来に帰れなくなるので、クラスメイト全員と接触し、解決の道を探る。
④終盤で作者が明かされる。それは美雪ではなく友恵だった。美雪は保彦が転入してからパラドックスが解決するまでを初稿としてまとめたが、2019年に出版されたのは、それをリライトした友恵の本で、2311年に保彦が読んだのは友恵版だった。
⑤大きな疑問点1
ⓐ2311年に保彦が読んだ古書には、保彦がタイムリープした2009年の出来事が書かれていた。
ⓑ2311年の保彦は、その古書を読むまでは、2009年のことは知らなかったし、タイムリープもしていない。
ⓒ然るに、2019年に出版されたその古書には、保彦が2009年にタイムリープしたことが書かれている。
ⓓこれは、保彦を2人作らない限り「タイムリープ」論では説明出来ない。パラレルワールドやマルチバースの概念が必要である。
⑥大きな疑問点2
ⓐ保彦は、2009年にパラドックスが解決して未来に帰れるようになったが、その後の状況から判断すると、未来には戻らず、友恵と結婚して過去に留まったと思われる。
ⓑ理由は、友恵がタイムリープの薬を複数持っていて、夫に作ってもらったと言っている。薬を作れる夫とは、保彦以外にはいない。
ⓒ更には、2019年に出版された友恵の本を、保彦がタイトルを指定して書店に買いに来る。そこには美雪もいて、美雪は保彦に気付いたが、保彦は美雪に気付かなかった。このことから、保彦は2019年までは過去にいたと思われる。
ⓓその後の保彦については描かれていないので不明だが、これが問題なのだ。未来人と言えども寿命は長くて100歳程、300歳を超えて生きることはないだろう。保彦が過去で死んでしまえば、未来の保彦は存在しないことになる。即ち、本作そのものが成立しなくなってしまう。だらか、保彦が過去に戻ったとはっきり明示して欲しい。
ⓔ他にも幾つもの疑問点があるが、上記2点に比べれば些細である。
❼考察2:正解試案
★描かれた物語は、上記❻に示した通り、ロジックに整合性のない部分があるので、一旦解体して、オリジナルの特長を生かした上で辻褄が合うよう再構築した。全部をリライトすることは無理なので、要点を示す。これは一例であり、別の正解もあることをお含みおき願いたい。
①時は西暦2311年の未来。天才少年・保彦は、服用すれば何処にでも自由にタイムリープ出来る画期的な新薬を発明する。
②保彦は、骨董屋で買った古書を読んで、興味を持った。それは『時をかける少女 (実写2010)』の物語で、尾道の女子高生を主役にしたタイムリープものだが、何よりも舞台となった尾道の魅力に惹かれた。
③保彦は、2009年の尾道の高校にタイムリープして、尾道での生活を満喫した。クラスメイトは文学好きが多く、保彦との出会いを小説にしようと競作するようになった。
④保彦が未来に帰ろうしたが、問題が起きた。薬を飲んでも未来に戻れず、タイムループに捕らわれていることが分かる。抜け出す条件は、競作の中から未来で保彦が読むことになる1冊を見つけ出すことだった。
★以下の展開はオリジナル通り。
⑤クラスメート全員と密なコンタクトを行った結果、目的の1冊が分かり、保彦は無事未来に戻ることが出来た。
⑥西暦2311年、保彦は、骨董店で、目的の古書『エンドレスサマー』を見つけることが出来、2009年当時の尾道での楽しかった記憶が蘇り、胸を熱くするのでありました。お終い。
❽まとめ
①300年後の未来で、何処にでも自由にタイムリープ出来る画期的な新薬を発明した天才少年・保彦が、2009年の尾道にタイムリープして、高3の主人公・美雪や友恵他のクラスメイトとの交流の状況をまとめた小説の作者を探す過程でタイムループに捕らわれ、クラスメイトたちもタイムリープを体験しながら解決に協力するとのSF物語には納得する。
②しかし、本作のロジックには❻に示したように2つの重大な整合性の問題がある。
③同じSFでも、これまでの上田脚本のようなコメディなら笑って見逃せるが、本作のような本格SF風となると、容認出来ない。