「原作はダーク・スリラーだが、映画はジュブナイル。」リライト 島田庵さんの映画レビュー(感想・評価)
原作はダーク・スリラーだが、映画はジュブナイル。
原作既読。
ひと言で言えば、面白かった。
心配した予告での保彦役の演技は、演出だった。
* * *
ただ、作品の毛色は原作とだいぶ違っていて、
原作がダーク・スリラーSFなのに対し、
映画はジュブナイルだった。
それは意図的なもので、
しかも脚本の上田さんと松居監督が、
同じ「時をかける少女」でも筒井康隆より大林宣彦を強く意識していることは、
原作文庫巻末のインタビューから窺える。
>(上田さん)原作はリライトによって世界線が変わっていきますが、映画では「世界線は一つ」としました。
>(上田さん)大林宣彦監督の『時をかける少女』を踏まえて、尾道で映画を撮ろうと松居さんから出た案なのですけど。あの名作に対して、まさにリライトを仕掛ける事になるので、映画版では後味の悪さを残して終わるのは嫌だなと。
>(松居さん)やっぱり映画だから役者が演じるとなった時に、どんなに痛みを伴っても、愛せない人を作りたくなくて。
そして映画は、目論見どおりの作品に仕上がっていて、
それは脚本家と監督の腕のなせるわざだろう。
* * *
でも、
原作より物足りなくなっちゃった部分もあって、
その一つは、
「世界線」が一つになっちゃって、分かりやすくなりすぎたこと。
「なんじゃこりゃあ」という面白さがなくなってしまった。
とはいえ映画は、
本と違って「その場でもう一度」というわけにはいかないから、
分かりやすくしないといけないんだろう。
もう一つ。
これは「厳禁」のネタバレなしには語れませぬ。
* * *
友恵が美雪の薬を「調合」して
タイムリープの到着日時を遅くして
「美雪もリライトできるんじゃない?」
と言った台詞の意味が、
どう考えても分からない。
友恵にとって、何もいいことはないのだから。
そして美雪もまた、さらなるリライトはしないことを選んだ。
「愛せない人を作りたくなくて」という監督の言葉からすると、
友恵も美雪も悪役にしたくない、
という配慮しか思いつかない。
だとしたら、つまらんなぁ。
* * *
原作では、
友恵がリライトしてしまったから、
クラスの誰も10年後にリープして来ないんである。
映画では、
友恵がリライトしたというより、
友恵がその小説を書くのが本線で、
美雪が「リライトしかけた」、
それを友恵が「さらにリライトして本線に戻した」
という話になっていて、これが
「世界線が一つ」ということなんだろう。
収まりはいいけど、
ゾクゾク感・クラクラ感は、原作の方が上だった。
それでも実は、
友恵は保彦を「手に入れている」
という点は、映画も原作と同じだ(ろう)けど。
>uzさん
その場面を映像化する案もあったけど、鑑賞後感が悪すぎるので却下されたようですね。
小説は個人の作品だけど、映画は社会的作品なんですね、いろんな意味で。
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