「事故の起こり方からサバイバルの現場まで、知能指数の欠如が累積するカオスだった」プロジェクト・サイレンス Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
事故の起こり方からサバイバルの現場まで、知能指数の欠如が累積するカオスだった
2025.3.4 字幕 イオンシネマ京都桂川
2023年の韓国映画(96分、G)
空港大橋の崩落に巻き込まれる行政官と市民のサバイバルを描いたスリラー映画
監督はキム・テグン
脚本はキム・テグン&パク・ジュスク&キム・ヨンファ
原題は『탈출: 프로젝트 사일런스』で、「脱出:プロジェクト・サイレンス」
「プロジェクト・サイレンス」は、劇中に登場する国家機密プログラムの名称
物語は、韓国内で人質が絡むテロ事件があり、その対応策をどうするかという国家安全保障室の会議が描かれて始まる
矢面に立つ室長のチョン・ヒョンベク(キム・テウ)は次期大統領候補となる人物で、行政官のチャ・ジョンウォン(イ・ソンギュン)は彼を懸命に支えてきた
会議でも室長の代わりに答弁を行うなど、次期総理に向けての根回しを行なっていた
彼にはオーストラリア留学を控えている娘ギョンミン(キム・スアン)がいた
その日は出発の日で、ジョンウォンは娘を空港まで送ることになった
ギョンミンは亡き母(ソン・ユヒョン)の絵本を大事にしていて、それを持って旅立つことになっていた
ガソリンを入れるためにスタンドに寄ったジョンウォンだったが、そこにいた店員が不当にお金をくすねようとしていると感じ、「後で店長に払う」と言って、支払いをせずに空港に向かってしまう
店員のジョー・パク(チュ・ジフン)は、慌てて彼を追うことになり、自前のレッカー車で空港に向かうことになった
一方その頃、仁川国際空港では、遠征に向かうプロゴルファーのシム・ユラ(パク・ジュヒョン)とマネージャーの姉ミラン(パク・ヒボン)が言い争いをしていた
また、認知症を患うソンオク(イェ・スジョン)とその夫ビョンハク(ムン・ソングン)もいて、彼らは空港からソウル行きのバスに乗り込んだ
バスはソウルを目指すものの、その車線には個人配信をしている暴走男(ムン・ビョンジュ)がいて、濃霧の中をあり得ない速度で走っていた
案の定、事故を起こすことになり、それによってタンクローリーは横転し、多重の衝突事故が起こってしまう
ジョンウォンは助けることもなく、そこを通り過ぎようと思っていたがギョンミンは居た堪れずに救助活動をしようと言い出す
そして、車から降りたギョンミンは、そこでガードレールに頭を打ちつけている「E9」と言うタグのついた犬と遭遇することになったのである
映画は、このE9が訓練された軍用犬で、ICチップによってコントロールでき、テロ対策などで使用される目的であったことが判明する
事故現場には、空港から基地に輸送される軍用犬が積載されているトラックがあり、E9はそこから逃げ出していた
その車両に乗り合わせた開発者のヤン博士(キム・ヒウォン)はそれらを制御できると知っていて、元のゲージに戻そうと命令を発する
だが、E9だけは指示に従わず、やがて全頭が制御不能になって、事故を生き延びた人々を襲い出してしまうのである
物語は、この軍用犬から逃げると言うサバイバルになっていて、政府の人間であるジョンウォンは国家権力を使って事態を収束させることができると考えていた
だが、そのプロジェクトは国家情報院が主導していたもので、その発進となる許可を出したのは室長だった
室長は関係閣僚から「決断」を迫られることになり、軍用犬の始末よりも救助を優先してしまう
だが、軍用犬の能力は特別で、派遣された軍人をあっさりと制圧し、ジョンウォンたちはさらに苦境に立たされるのである
映画は、ざっくりとしたスリラー映画になっていて、相手は訓練された軍用犬に思えるのだが、実際には選挙を見据えた時期における「政局への影響を考える人々の思惑が相手だった」と言うものだった
その板挟みになるのがジョンウォンであり、その思惑を暴露するのがジョー・パクと言う構図になっている
政治的な判断を理解するジョンウォンだったが、その判断が「現場にいれば行わないこと」であることを理解し、室長と全面対決状態になるのである
ひょっとしたら国権発動で橋ごとミサイルでぶっ壊すのでは?と思わせるほどなのだが、そこまで酷いことにはならないので安心した
もし彼が大統領だったらどうかはわからないが、現場にジョンウォンがいなければ、サクッと橋ごと爆破していたかもしれない
それでも、犬は泳げるので、それが最後のオチになっているところはニヤリとさせられてしまう
いずれにせよ、逼迫しているスリラー映画なのだが、登場人物全員アホと言う感じになっていて、やってはいけないことをやりまくっていくと言う映画になっていた
ここまで来ると、どこまで悲惨な状態になるかと言うコメディ映画にも見えてきて、最後のゲージが飛んでくるシーンは笑ってはいけないと言う感じに結ばれていた
報道陣のいる前で室長を殴るとか、プロジェクトを暴露するなど、その後がどうなってしまうのかわからないのだが、ともかくハッピーエンドのように描かれている
実際には110名の犠牲者と十数名の軍人などが亡くなっている悲惨な事件なのだが、それ以上に国家の闇との対決姿勢になっているのはわざとなのかなあと思った