セプテンバー5 : 特集
【本当に放送していいのか…!?テロの全世界実況生中継】
オリンピック中に選手団11人が人質に→TV局生放送→全
世界9億人が決定的瞬間を目撃 これは不適切報道なのか
否か!?あなたの倫理観を揺さぶる衝撃実話、緊迫の90分
そんな“葛藤”が心の奥底から湧き上がってくるのが、映画「セプテンバー5」(2月14日公開)。ゴールデングローブ賞ノミネートを果たし、第97回アカデミー賞では脚本賞にノミネートされた大注目作品です。同作の題材となっているのは、オリンピック開催中に実際に起き、今なお語り継がれている“史上最悪の事件”。その発生から終結までの1日をノンストップで描いています。
平和の祭典を襲った人質テロと対峙するのは、世界への生中継を試みたTVクルーたち。人類が初めて、テロの脅威を痛感した日。“わたしたち”観客は、極限の状況下に置かれた彼らの“視点”で“衝撃の真実”を追体験していきます。
さぁ、まずは気を引き締めて――この映画の“緊迫感”は尋常ではありませんから。
【没入系映画】鑑賞?体験?いや、もはや“現実”だ…
五輪史上“最悪”の発生→終結が“ノンストップ”で展開
この映画には“鑑賞”や“体験”の先を行くような“現実的感覚”を覚えました。しかも、これを本編尺約90分で実現しているのが、本当にすごい……。ここでは、そんな“没入”のポイントをお伝えします。
[世界が激震した“衝撃の1日”を描く]平和の祭典オリンピックで起こった“史上最悪の事件”。出場していた選手が人質に!? 世界が初めて“テロリズム”の脅威を目の当たりにした…
1972年のドイツ・ミュンヘンオリンピックの開催中に生じた未曾有の事態。それがパレスチナ武装組織「黒い九月」によるイスラエル選手団の人質事件。出場選手11人が人質となり、テレビ画面を通じて、全世界が初めてテロの脅威と対峙しました。
本作の特徴は「同事件を生放送したTVクルー」を主軸に描いていること。事件そのものの顛末は広く知られていますが、その様子を「世界に拡散した者たち」という未知のストーリーが展開します。
つまり“あなた”が事件の結末を知っていたとしても、TVクルーの視点から、“見たことがない事件の裏側”が追体験できるので、予測不能でスリル満点! もちろん事件について“白紙状態”であれば“衝撃”は倍増。可能な限り“何も知らない状態”で映画館に向かってください。
[本作はあなたの価値観を豪快に揺さぶる]TVクルーが事件現場を生放送。世紀の瞬間を世界に届ける! しかし、人質殺害の瞬間が映るかもしれない…それでも生放送するか? それは不適切報道ではないのか――?
常に観る者の“倫理観”を試してくる――この映画、そんな一面もあります。この要素を強めているのが、生放送に挑むことになったTVクルーの存在です。
実は彼ら、ニュース番組ではなく、オリンピックを中継するスポーツ番組のクルー。つまり“事件の報道”については慣れておらず、手探り状態で“歴史的事件”に向き合っていきます。
当時は、放送のルールが明確化されていない時代。彼らに突きつけられる“無数の選択”には正解がないという状況で、判断を誤れば“大きな問題”に……胃がキリキリして、息をつく暇もありません。
報道の自由とは? その責任とは? 「不適切報道」との言葉が話題となる昨今において、容易に答えを導き出せない“問いかけ”がスクリーンの向こう側から届き、価値観を根底から揺さぶってくるのです。
[異様な緊迫感]“歴史的生放送”が五感すべてに作用する 設定秀逸&緊張感MAXの「アルゴ」「THE GUILTY ギルティ」「ユナイテッド93」にのめり込んだ人は見逃すべからず
作品全体を覆っている“圧倒的緊迫感”。この張り詰めた空気を全身に浴びているうちに、映画ファンが愛してやまない名作との共通点も見出しました。
本作は事件の発生から終結までを“ノンストップ”で描き切っているため、怒涛の展開が押し寄せるさまは「アルゴ」を思い出すはず。
そしてTVクルーが常駐するコントロールルーム(=放送室)の光景を軸にしつつ“事件が直接見えないがゆえに想像を膨らませる”演出は「THE GUILTY ギルティ」のようであり、テロリズムの脅威を生々しく描出するさまは「ユナイテッド93」を想起しました。
どの映画も設定が秀逸、そして異様な緊迫感が画面の隅々までみなぎっているものばかり。これらの名作にドハマりした人であれば、「セプテンバー5」はドストライクな作品です。
[圧倒的、事件的な高評価]「すべてのレベルで傑作」「今年最高の緊迫感」世界の映画祭で高評価獲得! この“斬新さ”は、映画賞レース有力候補作のなかでも一線を画す
では、世界の評価は?――もちろん超絶高評価です。
いち早く上映された“ベネチア国際映画祭”では圧倒的な称賛を受けており、メディアからは「すべてのレベルで傑作」「今年最高の緊迫感 今年最高の作品」といった声も。ゴールデングローブ賞「ドラマ部門」へのノミネートも果たし、第97回アカデミー賞では現代に通じるメッセージ性が評価され、脚本賞にノミネートされました。
“報道の自由と責任のあり方”が現在にも通じるメッセージ性へと直結している部分も「いま観るべき」と“猛プッシュ”したくなるポイント。メディアでの拡散を意識した現代のテロリズム、複雑化する国際情勢――そんな“いま”へと繋がるので、公開後はすぐに映画館へ!
【レビュー】いつの間にか“最前線”に放り込まれていた
映画ファン全員に味わってほしい“全身停止の映像体験”
ここからは、映画.com編集部メンバーのレビューをお届け。「まるでTVクルーになったような気分に……つまり報道の最前線にいたんです」と本作にかなり“没入”してしまった様子。
まずはタイムコードとともに、彼の“心境の変化”をチェックしてください。
[開始10~30分]
オリンピック開催中、選手村の方角から“銃声”――向こうで何が起こっている? “真実の報道”のために、やれることをやるしかない……選手に扮装して現地に潜入、警察の無線から情報収集――TVクルーたちの行動力に驚きを隠せず
[開始45分]
事件現場から逃げてきた“人質”と接触に成功→生放送でのインタビューで“リアルな声”を届けるべきか……? いや、報道される被害者の“人権”は考慮しなくてもいいのか……?SNSでも議論されるテーマにシンクロし、ひたすら考えさせられる
[開始60分]
逼迫する状況を打破すべく、警察が突入――この歴史的瞬間、カメラで逃すな!!……待て待て待て、この生放送をテロリスト側も見ていたら? 情報が筒抜け!!?? 一体どうなる? 予測不能すぎる展開に大量の汗がにじむ
[クライマックス]
ネタバレになってしまうので何も言えないのだが…とにかくとんでもないことが起きる。ヒントを示すのであれば――いや、やっぱり控えておこう まるで時が止まったような……衝撃的過ぎて全身が“停止”する。そんな体験を鑑賞者全員に味わってほしい
上記のように、約90分のストーリーで感情はかき乱されっぱなしだった様子。では改めて、本作の魅力を語ってもらいましょう。
●筆者紹介
●大事件の瞬間を“あえて映さない”仕掛けが非常に巧み 「放送室で得られる情報」に限定→逆に観客が現場を想像…“テロの恐怖”が肥大化する
「1972年」「ミュンヘン五輪」「人質テロ」――いまは情報検索社会ですから、これらのワードを検索エンジンに放り込めば、事件の流れが数秒で把握できます。でも、この映画は、それらの詳細を“隠している”――そう、テロサイドの光景がほとんど映し出されないんです。
この手法が効果的!! 観客への情報は、TVクルーが奔走するコントロールルーム内で得られるものに限定されています。つまり、情報量が限られ、信ぴょう性が不確かな状態。“わたしたち”はTVクルーとともに、それらを精査していきます。
キーになってくるのが“想像力”。「現場はこうなっているのではないか?」などと考えているうちに、徐々に“見えないことの怖さ”に心が支配されていく。もしかしたら既に人質は――と“最悪の事態”が頭をよぎったり……。情報を“あえて”制限することでサスペンス性の限界突破に成功しています。
●“室内サスペンス”の素晴らしさにK.O. “数々の名演、セリフの応酬、交錯する思惑、波打つ感情”が、作品力の高さを象徴する
そして、ピーター・サースガードら名優級の“バイプレーヤー”が集結しているのもポイント高し!!!! 見事なアンサンブルで、喜怒哀楽すべての感情をこれでもかと刺激してくれます。
ちなみにストーリーの大半はコントロールルームで展開。これって下手をすれば“飽き”を招きそうな構造なんですが、そこは心配無用!TVクルーたちの焦り、疲労、歓喜と悲哀がダイレクトに伝わってきますし、室内劇ならではのスピード感溢れる掛け合いにも圧倒されます。
しかも、さまざまな“駆け引き”も生じていき、情報(=特ダネ)に対しての姿勢の違いから“衝突”も起こる。人質テロとは異なる“事件”が起こっているような……いやー、心が一切休まりませんでした。
●まさに今観るべき“必見作” 目撃した“事実”を広めるべきか、留めておくべきか――ダイナミックでスリルはじける物語の根底に、SNSが普及した現代へ通じるメッセージがあった
最後に伝えておきたいのは、“今”観るべき作品だということ。“あなた”をきっと満足させるエンタメ作に仕上がっているという理由もありますが、なによりもTVクルーに突きつけられる“問題”が、決して他人事とは思えないから。
現代社会はSNSが普及したことで人類全体が「総メディア化」しています。たとえば、本作で描かれるような事件に直面した時、“あなた”自身もSNSを通じて、情報を世に発信することが可能です(しかも“簡単”に)。
「セプテンバー5」では、発信によって生じる“光”と“影”を浮き彫りにし“わたしたち”の倫理観を試してきます。過去の事件が“新しい意味を持つメッセージ”に変化するなんて思ってもいませんでした。