「ずっと聞いていたいと思わせるし、これ以上の深掘りもできないと思う微妙な終わり方が秀逸」ドライブ・イン・マンハッタン Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
ずっと聞いていたいと思わせるし、これ以上の深掘りもできないと思う微妙な終わり方が秀逸
2025.2.20 字幕 アップリンク京都
2023年のアメリカ映画(100分、G)
タクシードライバーと女性客の車内会話を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本はクリスティ・ホール
原題の『Daddio』で、「お父さん」もしくは呼びかけなどの「元気か?」と言う意味
映画の舞台は、アメリカ・JFK国際空港
オクラホマから自宅に向かうガーリー(ダコタ・ジョンソン)は、イエローキャブのクラーク(ショーン・ペン)の車に乗ることになった
口紅を塗り直し、寡黙を貫くガーリーだったが、クラークも声をかけることなく、静かな時間が過ぎていった
程なくして、タクシーに乗り慣れていると言う話題になり、そこから最近はカード決済でチップがもらえないと言うクラークの愚痴に変わっていく
ガーリーはそれも静かに聞いていたが、彼女は夜景を虚に眺めているか、時折スマホの来たメッセージに返信をしているようだった
物語は、高速に入って少し進んだあたりで事故渋滞に巻き込まれる様子を描いていく
いつしか会話は弾み「相手を驚かせたら1ポイント」という遊びのようになっていく
そんな中で、ガーリーには恋人がいて、それが既婚者であることをクラークは見抜いていく
かつてクラークも遊びに盛んだった時期もあり、男の手法や本心などを暴露していく
過激な言葉に戸惑うガーリーだったが、そんな時に恋人からズリネタを送ってくれとメッセージが来てしまう
彼女はプライベートフォルダにある裸体の画像を送り、相手は興奮を隠せないと言うやりとりが続いていた
映画は、ガーリーに何かあると感じたクラークが、自分の妻の話を持ち出したりしながら、彼女の懐に入っていく様子が描かれていく
クラークは二度結婚していて、一回目の相手は男に都合の良い女だったと言う
だが、ガーリーはその奥さんは頭が良いと言い、何かが起こった時に笑顔になるか起こるかと言う選択肢において、彼女はクラークを笑わせる選択をしていたと言う
クラークも一度妻に悪戯を仕掛けられたことがあったが、その時は笑顔を返したと言い、ガーリーは「懐かしい?」とその顛末にふれることなく、空気を壊さずにいたのである
本作を面白いと思えるかは人生経験の豊富さと、タクシーで込み入った話をしてしまったことがある人のように思う
タクシーと言うもう二度と会わないと思う人との会話は、意外なほどに敷居が低く、何でも話せてしまう雰囲気がある
聞き上手な人もいれば、語りたがる人もいて、そう言った空間だからこそ、また他人だからこそ言えることというのもある
生きた人の反応と、自分に肯定的な共感を与えてくれる人にのみ心を開ける状況と言うのがあって、今回のガーリーのケースはそれに該当するのかな、と思った
いずれにせよ、奥深い会話劇が好きな人向けの映画で、ほぼリアルタイムに感じられるひとときを愛せる人向けの映画だと思う
英題の『Daddio』は1950年代に流行った呼びかけ方で「おまえ」とか「よお、元気か?」みたいな意味になっている
ガーリー目線だと「お父さん」という意味になるが、クラーク目線だと「元気か?」と言う意味になるので、あくまでも疑似父娘の関係がそこにあったのだと思う
傍から見ていると、女性のターゲットゾーンに入っている中年男性が「ワンチャン」あると思って口説こうとしているように見えるのだが、最後の告白で全てが砕け散って、お父さんにならざるを得ないのは笑った
握手をすることは父娘の関係を強調するゆえにガーリーはそれを拒んだので、クラークにその気があるのなら「ワンチャン」残っているようにも思える
彼らが再会を果たすかはわからないが、その時にどんな話をするのかは楽しみな反面、これ以上怖い話が出ないことを祈りたいものだ、と思った