「何もわからないが、ただ目が離せない。」「桐島です」 みる子さんの映画レビュー(感想・評価)
何もわからないが、ただ目が離せない。
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想像と創作でよく撮ったなと思う。同世代の監督からの鎮魂歌だろうか。桐島はまじめな優しい男として描かれる。
爆破事件の逃走犯と優しい男が共存している。なぜ不自由をおして逃げたままなのか、拘束されたくないからか、思想を曲げたくないからか、反省しているのか、いないのか、全くわからない。ただ端々で国を信じていないことは表現されていた。
これだけわからない中で見ているのに、全く退屈しなかった。なぜだろう。
桐島も最初は靴を履いたまま、窓際で寝ていたが、見る側は捕まらないことがわかっているので、サスペンスにはならない。
警戒はするものの、顔は隠さないし、一箇所に長くとどまる。
銭湯のおかみさんや、まともでなさそうな隣人は、彼が桐島とわかっただろう。でも言わなかった。
もし私だったら言うだろうか。言わないかもしれない。警察に連絡する煩わしさを差し引いても。国民の義務には違いない。ただ、よくわからない政治犯を自分が告発する権利、のようなものがあるのか。
昭和の空気感がそれを後押しする。戦争で多くの人が死んだ昭和。同世代ではないものの、同じ昭和に青春を送ったから、どこか切ない、それでいて骨太な、確実に今とは違う何かを感じて、懐かしさがあふれた。
平成、令和、時が止まっているのに身体は老いて病に倒れる桐島。時代遅れを自覚しながら生きた50年もの逃亡人生。同じ職場の令和の若者が、内田さんが死んだら嫌だなあと言う。よかったね、うーやん、と思った。
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